「あんなに可愛かったのに・・・」とは、いつの頃からか、つい口をついてでる言葉。
ずっと以前、子どもがまだ小さい時、可愛くて可愛くて、ぎゅっと抱きしめて、いつまで見ても飽きなくて、我が子は私の宝物でした。だけど、子どもは一人の人間。誰の所有物でもなく、ぐんぐん成長し、どんどん行動し、思わぬことを語りはじめます。
この絵本では、母から子への愛情、子が成長して離れていくことへの一抹の淋しさ、そして、子どもの命輝く躍動感などが、優しい色使いと柔らかい筆使いで描かれています。子どもは慈しんで育てられることで、羽ばたく力を得て巣立ち、今度は自分が守るべき対象を持ちます。人の暮らしと営みは繰り返し、そうやって命を繋いでいくのですね。リズム感のある文章は、規則正しく時を刻んでいく時計の音のよう。
タイトルにある「かしの木」は、季節によって色を変えながら、いつも母子に寄り添っています。かあさんは年をとっても、折にふれて、子どものことを思っています。読み終った今、かあさんに声をかけたい。 この本からは知ることができないけれど、息子を愛し育てる以外の「自分自身の人生」の話もきっとあるでしょう?あなたがあなたの人生をどう生きてきたかの話も、ぜひ聞かせて下さいね、と。
描かれているのは優しくて深い母の愛。 でも母の立場である私は、自戒をこめて読んでもみたい、そんな絵本です。