児童書でありながら、海外の作品はとても美しい芸術作品のように作られていることが多いです。
この作品の表紙絵を見てまず思ったのは、日本とは『児童書』の扱いが違うなぁという事でした。
今回の作品もマイケル・モーパーゴだからこそ、こんな風に紡ぎあげられた物語だなぁと、感嘆するものでした。
『戦火の馬』『時をつなぐおもちゃの犬』『ケンスケの王国』など、彼の作品は戦時中に実際に起きた出来事の中で起きた“国や人種を超えた人と人との優しさや結びつき”を
たおやかに語るように読み手に伝えてくれているように感じます。
今回も実際に起きたルシアニア号沈没事件を基に描かれていますが、ただの悲劇な物語でもなく、当時のドイツ軍への憎しみを訴える物語でもありませんでした。
これは、“悲劇”ではなく、“再生”の物語であったのではないかと思います。
歴史の好きなお子さんでないと、日本に直接関係のない〈ルシタニア号の事件〉はピンとこないこの方が多いと思います。
それでも、この物語を読めば、当時のイギリスとドイツがどんな状況にあったのかが読み取れるのではないでしょうか。
1つ1つのセンテンスが短く、必要な出来事が簡潔にまとめ上げられてるので、読み易く物語の中にスーッと入っていけます。
小学校の高学年くらいから十分に読める内容ですが、歴史的背景を考えると中学生・高校生くらいのお子さんたちにより手に取ってもらいたいと思いました。
個人的に一番心に残ったシーンは、ルシタニア号でドイツ軍の襲撃のため、船が沈没しかけているとき、メアリー(主人公)に「子どもは生きなくてはならないの。生きてちょうだい、お母様のために、私のために」と声をかけ、救命ボートに乗せてくれらおばあさん登場するところでした。
読んだ人それぞれに素敵な思いを感じさせてくれる作品だと思います。とても素晴らしいお話なので、『戦火の馬』のように映画や舞台になるかもしれません。そうしたたら、もっともっと多くの人が読んでくれるのじゃないかなぁと、ひそかに期待しています。