フランス語には男性詞女性詞があると聞いたことがあります。だとしたら、幽霊はさしずめ女性詞でしょうね。ちがうかしら。
幽霊って青白く細面の美人が似合う。髪なんか長く垂らして、細い手首から手のひらをそっと差し出して、「うらましや〜」でないといけない。
これが男性だと、大きな体で筋肉隆々太い声で「うらめしいぞ」なんて言われても、それはそれで怖いけれど、怖さの質が違う。
怪談噺では断然女性だ。
そもそも幽霊にが足がないというのがお決まりであるが、岩井志麻子さんが書いた「怪談えほん」は、女の白い足が怖さの源なので、そう言われてみれば、少年と呼ばれる年頃の男の子にとっては「女の白い足」はどきどきの対象であるに違いない。
つまり、岩井志麻子さんが書いた「怪談」話は、官能に満ちたお話になっている。
そういう話を絵本にしてもいいのかと思ってしまうが、岩井志麻子さんの作品群を見ていくと、彼女にそういう「怪談」を書かそうという意図が編集の東雅夫さんにはあったのかもしれない。
そして、岩井志麻子さんが描いた官能を見事に絵にしたのが寺門孝之さん。
ラスト近く、ベッドで眠る少年の身体に「女の白い足」がチョコチョコといたずらしている図なんて、官能×官能みたいになっている。
でも、そんな風に読んでしまうのは、少年をとっくに過ぎてしまったからで、本当の少年ならただ怖い絵本と思うだけのような気もするが、どうだろうか。