子どもの頃に絵本など読まなかった。
そもそも絵本があるような家ではなかった。
作家や漫画家、あるいはミージシャンといった著名な(といっても名前の知らない人も多いのだが)57人の人たちが絵本の思い出を綴ったこの本の、最後に登場する翻訳家の柴田元幸さんの「どんな絵本も読んできてません」は、だからいっそう小気味いい。
柴田さんは1954年でまさに同時代人で、「母親が枕元で絵本を読み聞かせてくれた」とか「児童書室でどれにしよーかなー」と迷ったことはないという。
私もまさにそう。家には一冊の絵本もなかった。
そんな劣悪な読書環境で育ったと思ってきた。
だから、この本の中で何人かの人が「通ってた幼稚園では毎月絵本がもらえた」と書いていてなんと恵まれた子どももいたものだとうらやましくもあった。
そういえば、私の場合、絵本ではなかったが小学館の学年誌を毎月購読してもらっていたことをふいに思い出した。
毎月決まった日に本屋さんが配達してくれる雑誌をどれだけ楽しみにしていたか。
それは絵本ではなかったが、その頃の学年誌には漫画だけでなく小さな物語もあっただろうし、それは特定の物語ではないにしろ、今の私を作ってくれた宝物のような存在であった。
さて57人の世代も性別も違う人たちの、思い出の絵本といってもほとんど重なることがないが、人気の絵本作家がそれでもいる。
それが加古里子さん。「だるまちゃん」シリーズの絵本作家である。
それと中川李枝子さんの『ももいろのきりん』を複数の人があげていたのが印象に残った。