できれば、そうならないようにしたいけれど、それは叶わないかもしれません。
私もこの絵本のおじいちゃんのように、「記憶」という風船を手放すことになるかもしれないのです。
今の言葉でいえば「認知症」。
この絵本は、やさしい文章とやわらかな絵で描かれていますが、「認知症」をまっすぐに見つめた作品になっています。
少年はいくつもの風船を持っています。
お父さんとお母さんは少年よりたくさんの風船を持っています。
おじいちゃんは、それよりももっと多くの風船です。
この絵本で描かれる風船は「記憶」です。
おじいちゃんは少年に風船の中のたくさんの話をしてくれます。
おばあちゃんと結婚した時の話だとか。
そして、少年はおじいちゃんと同じ風船も持っています。
それは、おじいちゃんと釣りに行った時の「記憶」。
そんな大事な風船を、おじいちゃんはひとつずつ手放していきます。
最後には、少年のこともわからなくなっていました。
忘れるという悲しい症例を、この絵本はやさしく描いています。
けれど、この絵本には最後救いが描かれています。
おじいちゃんの風船は、いつの間にか少年が持つ風船になっていたのです。
おじいちゃんが語ることで、風船が少年にバトンされたのです。
おじいちゃんから「記憶」は消えていきましたが、その「記憶」を少年が受け継いでいきます。
私たちはそのようにして、生きるということを繋いでいくのだと思います。