午(うま)年なので、せっかくだから、馬の絵本を読もうと思いました。
その時、すぅっと目に飛び込んできたのが、この『スーホの白い馬』でした。
奥付を見ると「1967年10月」発行とあります。もう50年近く前の絵本です。
それが何度もなんども読み返され、読み継がれているのですから、驚きです。
しかも、この物語はモンゴルの民話を組み立て直した作品で、文も絵も日本人によるものです。
なのに、こうして読み継がれてきたのは何故でしょう。
この物語はモンゴルの楽器馬頭琴(ばとうきん)がどうして誕生したのかを伝える昔からのお話です。
モンゴルの草原を生きる少年スーホと彼の白い馬の悲しい物語が読むものの胸を打つといえます。
実際に馬頭琴がどのような調べを奏でるのかはわかりませんが、モンゴルの草原に吹く風の音、馬たちのひづめの音、
草原を駆ける馬たちの息の音などが相俟って、どのページからも音楽が聞こえるかのようです。
絵本は文と絵だけでできあがっていますが、この作品には音が常に流れています。
それが物語に深みを与えているといっていいでしょう。
スーホはある日草原で迷っていた小さな白い馬を助けます。
月日が経ち、りっぱに成長した白い馬とともにスーホは殿さま主催の競馬の大会に出ることになりました。
そこで勝てば殿さまの娘と結婚できるというのです。
競馬が始まって、一斉に馬たちが駆け出します。先頭は、スーホの白い馬です。
競技に勝つものの殿さまは約束を守らず、スーホに乱暴さえ働きます。
白い馬は殿さまの兵士たちを振り切って、草原のスーホのもとに戻っていきます。けれど、白い馬のからだには無数の矢が突き刺さっていました。
死を目前にした白い馬は自分のからだで楽器を作るようにスーホに願います。
「そうすれば、わたしはいつまでも。あなたのそばにいられます。あなたを、なぐさめてあげられます」。
この絵本のもう一つの魅力は、馬と人間の交流です。
太古の時代から馬は人間にやさしく寄り添ってきたのではないでしょうか。
馬の大きくてやさしい目をみると、なんだか守られている気持ちになります。
そんなことが、この絵本にはきちんと表現されています。
午年なのですから、せめてこの絵本を読んで、馬のことを思ってみるのもわるくありません。