美しい絵本です。
盆栽の、満開のさくらの木の脇に立つ、ぼんさいじいさまが描かれている表紙を見るだけで、心が和み、安らいでいくような気がします。
細いペンで引かれた黒い線のうえに、(おそらく)水彩で淡く彩色されていて、動物たちと穏やかに暮らしている、ぼんさいじいさまの生活を見事に表現しています。
そんな平穏な生活を送っているじいさまのところへ、ひいらぎ少年がやってきます。そして、こういうのです。
「ぼんさいじいさま、お迎えにきました」
「じいさま、きょうのことは、ずーっと前からきまっていました」
すると、じいさまは、たばこをいっぷくすると、「じゃあ、でかけようか」と背筋をのばして答えるのです。
じいさまは、自分の人生に満足し、生き切ったと思っているのだと思います。
お別れのあいさつをしにやってきた、じいさまにかわいがられた動物たちに見送られ、じいさまとひいらぎ少年は、桜の花びらが散るなか、かぜのむこうにきえていきます。
でも、そのうしろ姿は決して寂しいものものではなく、しあわせな世界へ旅立っていくかのように見えます。
ひいらぎは、古くから、邪鬼の侵入を防ぐ魔除けとして庭木に使われてきたそうです。じいさまもひいらぎ少年に守られ、無事にしあわせな世界へ到着することができるでしょう。
この絵本には、「死」という言葉はでてきません。
死というものは、幼い子どもにはわかりずらいものです。また、なぜ死んでしまうのかと理不尽に思うこともあるでしょう。
そんなときに、この絵本を読んであげたら良いかもしれません。