【内容】
ある山に、いち早く花を咲かせる桜の木があった。たちばなはこれを見つけ、仲間達と花見をしようと、山ひとつ向こうからやってきた。ところが、この山に住む栗に何の断りもいれなかったので、栗たちの一族と争いになり…意外な結末が新鮮な、狂言絵本。狂言の「菓争(このみあらそい)」を下敷きにして作られた絵本。
文:岩城 範枝 絵:片山 健
【感想】
華やかな雰囲気と、つまらない理由で大騒ぎするケンカの対比が面白い。
昔も今も、「挨拶をしなかった」とか、「縄張り」とかいう理由で、簡単にケンカになる。しかも、この木の実たちは、きっとそこそこの身分がある人たちなのだろう。知識も教養もあってしかるべき立場の人たちなのに、下らないなあ〜と思う。
人間の心は、時代が進んでも全然変わらないのだと思って、感慨深い。
作品は、華やかな春の風景と、たくさんの柑橘類たちが楽しく遊びまわって素敵な雰囲気だ。たちばな、というのは、柑橘類の一種だが、もし絵がなかったら人の名前だと思ってしまいそう。その後に金柑や文旦、みかんなど、柑橘類がたくさんでてきて、意外と知らないものもあったりして(仏手柑など)興味が湧いてくる。
しかし、栗の一族(なし、ザクロ、桃、梅、棗、柿)と柑橘類の一族が仲が悪いというのは、面白い。確かに、柑橘類はそれらの果物と様子が違う。第一、厚い皮に何重にも包まれているし、酸味が強い。なんだか別世界から来たような気がする外観と風味。桃や柿などは簡単に食べられるが、柑橘類は手間がかかるし、食べる部分が少ないように思う。もっとも、栗はもっと手間暇がかかるが…
最近は、フルーツミックスといって、果物やナッツ類をいろいろに取り合わせて、総合力で勝負するジュース類やお菓子類があって、一見平和そうに見える。しかし、意外と、無理やり合意をしてしかたなく連合を組んでいるのかもしれない。
ああ、果物の世界も、関係がややこしいのだろうか…妙なことを考え出すと、おいしさが半減するので、この辺で果物関係を探るのはよそう。