有色人種差別があった頃のアメリカ南部ナッシュビルで、12歳になった
女の子が一人の黒人として誇りをもって生きることに、身をもって
目覚めた1日を描いた本です。
その女の子パトシリアは、おばあちゃんと「とくべつな場所」と呼んで
いるところに、生まれて初めて、一人で出掛けて行きます。
バスに乗ると、有色人種と白人は座る場所が違い、いくら白人の場所に
座る場所があいていても黒人は座れません。
公園の噴水に圧倒されベンチに腰掛けようとすると、そこは白人専用の椅子...
黒人お断りの立て札が出ているホテルにひょんなことから紛れ込んでしまい、
白人たちの目に蔑まれ、小さな胸は張り裂けそうになり、くじけて、
「とくべつな場所」に行くのをやめたくなりました。
その時、おばあちゃんの言葉を思い出すのです。そして、とうとう行き着いたのでした。
「公共図書館:だれでも自由に入ることができます」
最初の見開き2ページまで、きっと読者の子供は単にお出かけの話だろう
としか思わないと思います。でも、その後に、これでもかというくらい、
ただ肌の色が黒いというだけで、しいたげられ嫌な思いをするこの状況を、
例え国際結婚が増えたと言え、殆ど単一民族の日本人の幼稚園児や
小学校低学年には、きっと完全には理解できないことでしょう。
むしろ、色々と考えられるようになった小学校高学年・中学生以上が
対象の絵本なんだと思います。
その人種差別の話だと気付かせない最初の2ページの最後の部分の
おばあちゃんの言葉が、この絵本の真髄なんだと思いました。
「どんなことがあっても、胸をはって歩くんだよ」
そして、行き着く先の「とくべつな場所」が図書館であってくれて、本当によかった!
知識を得ることは、時として、人間の尊厳である「自由」への一歩ですから。
パトシリアにとって、おばあちゃんはよき導き手だったのでしょうね。
この後に、黒人は立ち上がり団結し、アメリカは、有色人種法が撤廃
します。きっとパトシリア達のような目覚めた黒人たちの団結が実を結んだのでしょう。
これは人々の歴史の中で知っておくべき事柄の1つを、あえて絵本と言う形にして
描いてくれた本だと思います。是非、一読してください。