港の祭りで打ち上げられた風船を飲み込んだクジラの子ども、ボンは、気球のように浮き上がり、ずんずんと町のほうへ流れて行き…
クジラの巨大さとのんびりした生活と、人間の小さな忙しい生活の対比が感じられて面白い。それぞれの場所で小さな世界を作って住んでいる住人たちが、突然、別世界の住人に妙な形で出会う。そのときの反応が温かいものであってよかった。
サッカー場に落ちたボンは、「動物園の池では浅すぎる」「市場で売るのはかわいそう」となり、結局、海に持っていくことに人々は決めた。その間も、動物の医師がクジラの健康状態を調べたり、サッカー場に野次馬が入らないように警備したり、報道陣が控えめに取材したりするなど、みんなマナーを守って温かく接していた。
クジラの運搬には大型重機と警察が動員され、海まで護衛付きのパレード。箱根マラソンよりも白バイや警備員の数が多く、手厚いもてなし。沿道には人々がつめかけ、祭りのようだった。
この話は祭りに始まり、祭りで終わる。
喜びごとが更に大きな喜びごとを招いたようで、心楽しくなる。
クジラが来たら、幸せがたくさん訪れると信じていた人たちの気持ちがわかる気がする。終始和やかで、平和的で、美しい絵が展開され、命を大事にする人々に囲まれている素敵な世界だ。