生後9ヶ月で、開拓移民としてテニアン島に渡った著者が、幼くして味わった現実の厳しさを語った後、16歳でサイパン島で軍属勤務となり、激化するアメリカ軍の攻撃を間近に体験した、壮絶な記録です。
私は、数年前にサイパンより南に位置するパラオを家族で訪れて、まだ残っている戦争の爪痕に、その当時を偲んできました。
その記憶が、この本と重なり合いました。
民間人であっても、戦争は相手国からすると敵国人なのだということを、今まさに怒っている世界の戦争状況によって思い知らされている日本人です。
その私たちもその過酷さの中にいた事を忘れてはいけません。
この本には、当たり前のように死と絶望が側にあります。
埋めこまれた軍国思想のために、アメリカ軍に対する猜疑があります。
偏見、先入観による、日本人同士の混乱があります。
すべてのことが、真実なのだということを通じて、戦争を考える貴重な記録だと思います。
ただ一人、自決の場から生還できた著者の使命だったのでしょう。
あとがきで、家族再会の奇跡を知ってホッとしました。
生きていれば、こんなことだってあるのだという一陣の光に暗い気持ちが救われました。