絵が、川端誠さんらしくないと思う方があるかも知れません。
川端さんが初見とか、馴染みのない方だと、写真のような絵なので、写真に色づけする作家さんかと思うかも知れません。
でも、この絵本は、紛れもなく、川端誠さんの絵本です。そして、私は間違いなく傑作だと思います。それは、例えば、初期の3部作、「鳥の島」「森の木」「ぴかぴかぷつん」などと比べていただけば、どなたでも分かります。あるいは、「十二支のお節料理」や「落語絵本」シリーズなど、版画を元に描かれた作品と比べられても良いかと思います。とにかく、とてつもない根気をもって、丹念に描かれた絵、それが川端さんの絵なのです。
今回は、そうやって描かれた槍ヶ岳やアルプス銀座と呼ばれる燕岳〜槍ヶ岳の縦走路の実際の風景を舞台として、従来の絵とは異なる、より写実的な描写による親子を中心とした人物が往来するのです。
お話の方は、その紹介にもあるとおりで、小学生高学年の男の子がお父さんに連れられて、初めて槍ヶ岳を目指す物語です。楽しいこともツライことも起こりますが、お父さんは、常に冷静で的確に、子どもを導いて行きます。
最後、奥付の上の方には、川端さんの思いを綴られた文章も見えます。見開き一杯のスタンプに彩られたルートも楽しいです。ともかく、一度、手に取ってその質感を、絵も文章も質感を感じていただきたい、ずっしりと来る絵本、それが私の感想です。
真ん中辺りには、ルートで見られる高山植物の紹介もされています。この主人公の男の子と同じ年代でなくても、この絵は、もっと小さな子ども達にも、ぜひ体験してもらいたいものだと思います。少し横長?な大きめの絵本は、十分に眺めるだけでも、何かを残すものと思います。