この小さな絵本の作者、柳原良平さんにことを話しましょう。
柳原さんは今年(2015年)8月17日に亡くなりました。奇しくもその日は柳原さんの84歳の誕生日でもありました。
柳原さんといえば、誰もが「アンクルトリス」を思い出します。
子どもたちに「アンクルトリス」といってもわからないでしょうが、サントリーという洋酒メーカーのCMに登場した人気キャラクターです。その頃、サントリー宣伝部には開高健や山口瞳といった文章の達人がたくさんいました。彼らが作りだすコピーに柳原さんが描くイラストはとてもマッチしていました。
洗練された細い線、大胆なディフォルメ。
お酒を飲む人にとって、柳原さんの「アンクルトリス」ほどなじみのキャラクターはいませんでした。
それだけではありません。
柳原さんは船が大好きで、船のイラストや絵本もたくさん描いています。
そこでも柳原さんの線は柳原さんのままです。
そんな柳原さんのこの絵本を見つけて、うれしくなりました。
これは、野菜の絵本です。
単純素朴に野菜が描かれています。丸っこい、くるりとした目をしただいこんが赤一色の背景に一本だけ描かれています。そえられた文は「だいこん いっぽん」、それだけ。
次のページには、二本のにんじん。そのうちの一本は、目をつむっています。そのまつげが長い。こんなところにも、柳原さんの絵の特長がでています。
きゅうり、かぼちゃ、たまねぎ、トマト、じゃがいも、ねぎ、ごぼう、れんこん、なすび、とうもろこし、ピーmン、きゃべつ、いんげん、えんどう、そらまめ、ほうれんそう、とさまざまな色と形状をした野菜が描かれていますが、そのどれもが柳原さんの絵のタッチなんです。
そして、たくさんのやさいが並んだお店にやってくる、男の子とお母さん。
買い物するお母さんも料理をするお母さんも、どうしてか目をつむっています。
柳原さんにとって、目をつむるというのはやさしさを表しているのかもしれません。
今夜のおかずはなんでしょう。
そこに「アンクルトリス」が帰ってきてウイスキーを飲む、なんてことは、さすがに絵本ですからありません。
でも、柳原良平さんは、ここにいます。