今ではもう、だいぶ昔のこと。
ある国に、噂されるくらいに見事な金色のたてがみを持ち、自惚れも人一倍強いライオンがいました。
ある日。
今の王様の死が間近であることを理由に、次の王様を国民で決めることになりました。
候補に一番に挙がったのは、銀のたてがみを持つライオンです。彼が素晴らしい人格者であることを噂で知っていた人々は、彼が王様になることを当然のように思っていました。
でも、金のライオンだけは違いました。
噂に振り回される国の人々。
実際に会って確かめたわけでもないのに、良い噂も悪い噂も簡単に信じてしまう人々。
金のライオンはその簡単さを見抜いたから、悪い噂を流したのではないでしょうか。
最初は信じてもらえなくても、いずれは信じると分かっていたから。
しつこいくらいに何度も何度も、悪い噂を流した。
なんの罪もない、素晴らしい人格者である銀のライオンを貶めるために。
金のライオンのその悪意にゾッとしますが、けれど、もっと恐ろしいのは、案外私たちも簡単にやっていそうだということです。