北欧には、家を守って幸せをもたらすという小人の言い伝えがあります。訳者の「あとがき」によれば、ノルウェーやデンマークではその小人のことを「ニッセ」と呼び、スウェーデンでは「トムテ」と呼ぶそうです。
トムテを大事にすれば、トムテのほうでもその家のために夜番をしたり、仕事がうまくはかどる手助けをしてくれるとのこと。それで、クリスマス・イブには、トムテの分のおかゆを器に入れて、納屋や仕事場に出しておくのだそうです。
そんなトムテをたたえる気持ち、やさしい思いを、命のはじまりと終わりの不思議をからめて詩にしたのが、この作品です。
トムテは夜番をしながら、何百年も生き続けています。ですから、農場の家族たちの何代も前の人々のことだってよく知っています。彼らはいつの時代でもトムテによくしてあげ、トムテも愛情こもったまなざしで家族みんなを見守り続け、農場に息づくすべてのちいさな命をも大切に見つめてきたのでした。
見つめ続けてきた大切な命。……それが、どこからやって来て、いったいどこへ消えてしまうのか…。そしてこの際限なく広がる宇宙はどこから始まって、どこが終わりなのか…。そんな疑問を抱かずにはいられないくらいに不思議な、生と死、自然の力のもたらす繰り返しのリズム。たったひとり眠らずに夜回りしつつ、一生懸命思いを馳せるトムテの姿。
その解けることのない疑問の神秘さに、深いエメラルドグリーンの夜の雪景色が醸し出すしんと静まった幻想的な空気が重なってゆき、こうしてまたトムテのおかげで質素ながらも幸せに包まれた一家の歴史は刻まれ続けるのです。