この絵本の作者小川洋子さんは、もちろんあの『博士の愛した数式』や『妊娠カレンダー』を書いた芥川賞作家の、小川洋子さんその人です。
さすがに言葉を紡ぐことを職業にする人だけあって、なんとも言葉が美しい。
それに物語の構成がやはりうまい。
主人公はタイトルとおり、「ボタン」。洋服についているあれです。
女性ならではの視点です。ボタンを集める趣味の人がいるぐらいですから、女性にとっては大事な小物です。男性にはなかなか思いつかない。
では、ボタンちゃんのなかよしってわかります?
これも男性には思いつかないかもしれません。
答えは、ボタンホール。
ボタンちゃんが丸いお顔なら、ボタンホールちゃんはほっそり顔。それに恥ずかしがり屋。こういう視点も女性ならでは。
しかも、ボタンがかわいいのはボタンホールのおかげというのもいい。
ところが、ある日、そのボタンちゃんのとめていた糸が切れてしまうのです。
ボタンちゃんはコロコロ転がっていきます。
普通であれば仲のいいボタンホールちゃんと離ればなれになってしまうのですから、ボタンちゃんはめそめそ泣いてしまいそうですが、小川洋子さんはボタンちゃんにちょっとちがった世界を冒険させるのです。
それは部屋のいろんな隙間に忘れられた思い出の品。
ガラガラであったりよだれかけであったり、子熊のぬいぐるみであったり。
ボタンちゃんの主人アンナちゃんがうんと小さい時に手にしたり身につけていたりしたものです。
昔はあんなに仲がよかったのに、今ではすっかり忘れられてしまった小物。
この物語の最後には主人公のボタンちゃんも、そういう小物になってしまいます。
だって、アンナちゃんが大きくなれば、いくらお気に入りのボタンがついていても、着れませんものね。
この絵本はそういうふうにいつかさようならをする小物たちへの愛を描いた物語といえます。
読み終わったあと、そういえば何か大切なものを忘れていないか気になりました。
思い出せたらいいな。