私の子どもの頃、この本を見てちょっと怖い絵だなと思っていました。切り絵の魅力が小さな子どもにはわからなかったようです。でも自分の子どもが幼児の時に滝平二郎さんの切り絵の表紙に惹かれ、驚きながら再び手にとりました。
じさまと豆太の二人きりの優しい暮らしは、実は年老いたじさまのことを考えるといつまでも続くとは思えず、そんな中での豆太の臆病ぶりはどれだけじさまの心配の種だろうと思われます。でも、豆太はその優しさ、じさまへの愛情から思いもよらぬ勇気を見せ、じさまの窮地を助けるのです。じさまの「にんげん、やさしささえあれば、やらなきゃならねぇことはきっとやるもんだ」という言葉は、チャンドラーのハードボールドの世界にも通じる、優しさだけではない男の人の強い世界をかいま見せてくれます。子どもの頃はなんとなく怖かった絵の美しさ、すばらしさにも圧倒される思いでした。