これは湖のほとりにある、一軒の小さな木の家の物語です。
それは長い時の物語でもあります。
絵本ですが、まるで長編の物語を読むようでもありますし、長い一篇の映画を観るようでもあります。
でも、これは絵本です。
ゆっくりと頁をめくる、そんな絵本です。
家はこの絵本の作者であるトーマス・ハーディングさんの曽祖父が1927年に建てたものです。曽祖父は医者で、4人の子どもたちが自然の中で暮らせるように、湖のほとりに建てたそうです。
でも、時代がよくありません。
戦争になって、ユダヤ人であった一家はこの家を去ることになります。
次に住んだのは、音楽好きの一家。
でも、彼らも戦争のせいでこの家を出ていきます。
さらにまた別の一家、さらに戦争が終わって別の家族がこの家で暮らします。
家はきっと住む人たちの、さまざまな様子や感情を見てきたでしょう。
その姿はそれぞれだったでしょうが、きっと家を愛するということでは同じだったかもしれません。
家はそこに住んだ家族のことを覚えているのでしょうか。
そこで笑ったり泣いたり怒ったりした家族のことを覚えているでしょうか。
訳者である落合恵子さんは、2020年の春浅い日々から晩春にかけてこの本とずっと一緒だったと綴っています。
コロナ禍の時、落合さんは戦争で揺さぶられた家とともにあったのです。
この絵本はそんなふうにして、時代の中で何かを考えさせる一冊です。