この絵本の面白さを絵から読み解いていきましょう。
まずは、表紙の絵をよーく見てみます。くちばしが青いカラスと黄色いカラスがいますね。
「えっ、どっちがお兄さんのたろうがらすかな」という疑問が湧くとともに、
「くちばしは黄色いほうが大きいから黄色い子の方かな」などと考えをめぐらします。
次に、めくって中表紙の絵を見ると、絵は箒とちりとりでこの二人がチャンバラをしている絵に変わっています。
「お兄さんがリーダーシップを持っているなら、お兄さんが先に武器を取るだろうから武器らしい箒を持っている青いカラスがたろうがらすだろう」と考えたります。
この謎が解けるのは12ページにおいてです。文章に、あられのおだんごをたろうがらすが売り始めたと書いてあり、その下には、青いくちばしのカラスがおだんごになったあられを売っている絵が描いてあるからです。
「やっぱり、箒をもっていたのがお兄さんのたろうがらすだ」と自分の予想が正しかったことにここで「ニヤっ」とできます。
14ページから17ページまでは、圧巻の連想造形遊びシーンです。エズラ・ジャック・キーツの「ゆきのひ」を始め子供が雪で造形遊びをする絵本は多いのですが、降りつつある雪の中で作っているからこその連想造形遊びを描いている絵本は他にないと思うのです。
上を向いて降ってくる雪をずーと見ていると、自分の体が空に向かって飛んで行くような錯覚を覚えるわけですが、その様子を14ページでは、ただの丸い雪で表現し、15ページになると、それに白いスピード線を入れて錯覚のスピード感を表現しています。
かこさんは親切に、たろうがらすの脇にはあられのお団子も描いてあり、こっちがたろうがらすだよと分かるようにしてくれてます。
15ページの最後の方で、二人が「宇宙船に乗っているみたいだ」と言っているのを読みながら、次の見開きに行くと雪だるまから発展した大きな雪宇宙船を二人で作ってしまった様子が描かれています。ここでは、降る雪のスピード感はさらに強まっています。単純な絵なのに、見れば見るほど発見があります。絵本は絵を見ることが大切だということを教えてくれる絵本でもあります。
かこさんの素晴らしさをまとめますと、子供の想像力を掻き立てる絵本作りのベースとして子供の心がどのように動くかを熟知しているだけでなく、文章と絵の掛け合いを使ってその子供の心の動きに寄り添い、さらに揺さぶりをかけるという、絵本作りの高度な技術をも持ち合わせている人、と言えると思うのです。作る側も読む側もたくさんのことを学べる絵本を復刊していただけたことは大変喜ばしいことだと思いす。ありがとうございます。