子どもの頃読んだ漫画雑誌に「日本の怪奇現象」みたいな読み物がよく特集されていた。
その中のひとつに「髪の毛が伸びる人形」という記事があったのを、この絵本を見て思い出した。
あれはどこかのお寺に奉納されていた人形ではなかったか。
あれから何十年も経っているから、もしいまだに伸びているとすれば、すごい。
あの記事が本当の話なのかわからないが、子ども心になんとなくありそうだと思っていた。
それは、人形の力だろう。
人の魂によりそうような力が人形にはある。
その時の記事の人形も、この絵本の人形のような市松人形だったように思う。
それにしても、怖い絵本だ。
詩人の谷川俊太郎さんが文を書き、写真家の沢渡朔(はじめ)さんが写真を担当している。
沢渡さんといえば、『少女アリス』で人気を博した写真家だ。
写真といえば、その技術がこの国に入ってきた時、被写体の人の魂をとるとか、三人並ぶと真ん中の人が先に死ぬとかよく言われたものだ。
昭和30年生まれの私でさえ、そんな迷信を耳にしたことがある。
この作品でいえば、逆に写真が人形に魂を吹き込んでいるかのよう。
窓辺に佇む市松人形、彼女の名前が「なおみ」、はまるで生きているようだ。
本物の少女(モデルは石岡祥子)と二人で本を読んでいる場面など、息をしているのがどちらかわからない。
まだ初潮すら迎えていない少女と「なおみ」。
けれど、少女は確実に成長する。
しかし、「なおみ」はいつまでも「なおみ」のままだ。
「なおみ なおみ/わたしは むっつ/なおみ なおみ/あなたは いくつ?」
やがて、少女は口をきかない「なおみ」を遠ざけることになる。
箱に静かに横たわる「なおみ」。
目は開いたまま。
「なおみ」はこうして時間の奥へ追いやられていく。
「なおみ」もまたいつか読んだ怪奇記事の人形のように、いつまでも髪の毛が伸び続けたのだろうか。
怖い絵本である。