数年前、パブロ・カザルスの奏でる「鳥の歌」を聴いた時、一瞬にしてチェロという楽器の魔力に取り付かれました。深く悲しく私の心に響いたあの曲。そして不思議な力を持った楽器チェロ。
今回、この本を読んで、なぜチェロが人の心にスーッと入り込んでくる音色を持っているのか、分かったような気がしました。
自らもチェロを弾かれるという作者のいせさんは、あとがきの中で、こう記しています。
「人間の形をした楽器、人間の声で歌う楽器、チェロを弾く人の姿は 私には
人が自分の影をだきしめているようにみえてならない」
この物語は阪神淡路大震災復興支援チャリティーの「1000人のチェロ・コンサート」へ参加した「ぼく」が同じチェロ教室の女の子、コンサートの練習で知り合ったおじいさんとの関わりを通し、成長する姿を描いています。
自分の思いをぶつけるのではなく、それぞれ背負っているものや立場がちがっても、気持ちを一つにあわせれば、風にのって誰かにその想いが届いていく。
本番のコンサートはさぞかし素晴らしい音色が会場に、また風にのり、震災で心身ともに傷ついた人々に響いたことでしょう。