「敗戦のとき、僕は十九歳でした。」
こんな書き出しで始まるのは、絵本作家かこさとしが子供たちに残したメッセージ『未来のだるまちゃんへ』の「はじめに」の文章です。
その文章の中で、かこはかつて軍人を希望しながらも近視が進んでなれず、一方で軍人を志した同級生の多くが戦死し、絶望の淵にあったことを告白しています。
そんなかこを救ったのが、子供のためにできることをしようと決意したことだったのです。
かこは、昭和二十年から自身の人生が始まったのだといいます。
この絵本は、「ちいさいときから、秋が大好き」だったかこが昭和28年に描いた作品です。
タイトルの「秋」には、かこには珍しくピンクのクレヨンが使われていました。
そんな色やタイトル、あるいは書き出しの秋の魅力を描いた数ページとうってかわって、この作品は戦争への嫌悪を描いた、かこの思いが強く出た反戦絵本といえます。
敗戦間近の19歳の秋、かこは盲腸炎で入院をしていました。
そこで、お世話になった医師が軍隊に召集され戦死することやアメリカの戦闘機と戦った負けた日本兵が落下傘が開かず墜落する様などを体験します。
かこは思います。
「青い空や澄んだ秋晴れは、戦争のためにあるんじゃないんだ。」と。
最後のページには、戦争のない秋に咲く美しい秋桜が描かれています。
それこそが、かこが願った世界でした。
絵本の最後に、かこの長女である鈴木万里さんがこの作品の出版にいたる経緯を記しています。