30年以上旅をし、本を読み、世界中の木と人々の関係を研究
してきた「わたし」と、植物園へ通い続ける女の子「さえら」の
ひと夏の交流のお話です。
花を引き抜いてしまった「さえら」に、「わたし」は、ひまわりを
種から育ててみることを勧めます。
植物園のあちこちに出没する「さえら」は、最初こそ問題児扱いでしたが、
次第に植物園の一員として受け入れられるようになります。
読み始めてすぐ、「人はみな心の中に、一本の木をもっている。」という
一文が出てきます。最初、なんの脈絡もない一文のように思えたのですが、
何度か読み返すうちにふと感じるものがありました。
いろんな解釈があるとは思いますが、この一文を挟んで「さえら」との
思い出が描かれていることから、「わたし」の心の中にある一本の木に
「さえら」との思い出が深く刻まれているよ、ということの表れだった
のかな?と私は感じました。
やがて、「さえら」との別れの時が静かに訪れます。
「さえら」の育てたひまわりがしっかりと根をおろして育ったように、
「さえら」の心の中の木も「わたし」と出会ったことで成長したことが
伺え、なんとも不思議な気持ちになりました。
別れの時まで「さえら」を優しく見つめ続けた「わたし」。
それはまるで「大きな木のような人」だったことでしょう。
木と人の心。木に対して、こんな風に感じたことが無かったので、
とても新鮮な感覚でした。
おそらく、一度読んだだけでは理解できない絵本だと思います。
是非何度も読み返してみて下さい。毎日植物園はやって来た「さえら」のように。
読めば読むほど、味わい深くなる一冊です。
ちなみに息子も読んでいましたが、「よくわからない」との感想でした。
大人向けの絵本なので、大人になってからまた是非読んで欲しいな。
その時は、この絵本の良さがわかるぐらい、心の木を成長させていて
欲しいなと思います。