原作者の高橋宏幸さんが「チロヌップのきつね」三部作を一冊の本にまとめたこだわりがとてもよく分かります。
千島列島の小島ウルップ島を舞台にキツネと人間の繰り広げるドラマ。
江戸時代末にこの島に足を踏み入れた夫婦には、この島に乗り込んでくるロシア人との緊張関係、大自然の厳しさが待ち受けていました。
島で生まれた一人娘を失った悲しみがありました。
そんなときに島の主であるキツネたちとの絆が二人を支えてくれたのです。
哀しい物語の後、この島をめぐるキツネと人間の歴史が第2話、第3話と続きます。
キツネと共存しようとする人間と、キツネを毛皮と見る人間がいました。
キツネには同じ人間なのに、敵であったり味方であったりします。
同じ人間が島を自分たちを置いて島を去ったり、訪れたりします。
キツネには不思議で仕方がないに違いありません。
キツネの厳しくても素朴な社会と、人間の複雑な社会。
小島を舞台にドラマを書き上げたのは、著者自身がこの地を訪れたからでしょう。
そして訪れたのが太平洋戦争が激化してきた昭和19年ということも無縁ではないでしょう。
その当時が解るわけではありませんが、極限の環境で繰り広げられる話は、様々な教示を与えてくれました。