長谷川集平さんと言えば、「はせがわくんきらいや」でデビューしたことで知られ、「ホームランを打ったことのない君に」が良かった記憶のある作家です。
少し前に「トリゴラスの逆襲」を読んだのですが、1978年の「トリゴラス」の続編とのことで、話の展開が分からなかったため読んでみました。
それにしても、続編まで32年もの空白期間があるというのは、稀有な作品に違いありません。
結論から言うと、2作は物の見事に繋がっており、2作で1つの作品であると言って過言でないということ。
2作を続けて読むと、この作品に対する作者の想いが、十二分に伝わってきます。
主人公の少年の、父に対する会話で物語は始まります。
「とぼけんといてか、おとうちゃん。
ぼくは ほんまのことが ききたい。
あれは かいじゅうにちがいない。
そうやろ おとうちゃん。
かいじゅうが びゅわんびゅわんと とびよるのやろ。
まちにむかって とびよるのやろ。ちがうか、おとうちゃん。
なまえは トリゴラス。そうや、鳥のかいじゅうなんやで」
真夜中の外の風の音に、少年が怪獣に違いないと想像するのです。
最初は、単に少年の空想を描いただけの絵本かと思ったのですが、読み返すとそんな単純なものではないことが分かります。
これは、少年の心象風景を描いたものではないでしょうか。
それも、抒情詩的に高らかに描くというのではなく、怪獣を介して暴力的に描ききっているのです。
その巧みさが、熱狂的は男性ファンを生み出してきた理由だと思います。
文章はほんの僅かですが、少ない大阪弁が実に効果的。
暗い単色で描かれた絵は、好みが分かれるところですが、青年期の少年の心情を如実に示していると言えそうです。
小さいお子さんだと、怪獣のみに関心が向かってしまうと思いますが、ある程度、年齢が達すると何か分からないけど共感できてしまう、そんな類の絵本だと思います。
長谷川集平さんの力量に終始圧倒された作品でした。