モーラさんはメキシコ移民の祖父母の影響を受け、スペイン語を第一言語とするアメリカ西南部の貧しい人々をモデルにした作品が多い方だそうです。
この作品も実在の人物トマス・リベラ(カリフォルニア大学バーサイド校学長を務めた方)の実話です。
トマスは、1935年、テキサス州クリスタル市に生まれました。
両親は移民労働者(雇われ農業従事者)でしたが、こどもたちの教育にとても熱心でした。
毎年、夏の間テキサスから1000キロも離れたアイオワの農園に、家族で移動し働きに行きました。
両親が、トウモロコシ畑で収穫作業をしている時のトマスの楽しみは、弟のエンリケと遊ぶことと、おじいさんのスペイン語のお話しを聞くことでした。
おじいさんの話も尽き、「図書館に行って、新しいお話しを教えてくれ」と促され、トマスは町の図書館へ…。
素晴らしい出会いです。
身なりも粗末で、図書カードも持っていないトマスに、水(暑い地方の暑い季節ですから)と本を提供してくれた図書館員のおねえさん。
足繁く通うこの少年の貪るように本を読む姿に、きっと感じるものがあったのでしょう。
彼女の図書カードで、貸し出しも許してくれるところで、ジワーッときました。
そしてさらにトマスへの素晴らしい時間をくれました。
声を出し読む事の大切さ。
人に伝える(教える)作業が子どもにもたらす、大きな能力。
本当に素晴らしい司書さんです。
ラストの別れのページも、胸にしみ入るお話しでした。
後書きとトマスさんのお写真を見て、新たなる感慨を持って本を閉じました。