読んだ後、ずっしりと心に残るものがあります。
体が小さな仲間をばかにして、いじわるで月に行ってこいと言ってしまうわたりがらすたちの話です。ちいさなわたりがらすは本当に飛んで行ってしまい、途中で力つき、死にそうになって戻ってきます。いじめたわたりがらすたちは、小さな仲間の勇気の前に恥じ入り、最後には仲良くなるという展開です。
いじめたうちの一人が年をとってからその時のことを回想する形をとっているのがこの本のポイントではないでしょうか。いじめた側の心境の変化がよく描かれているからです。最初は彼の小さいこと、醜いことを小馬鹿にしていた「わし」たちが、決定的にいじめることになったきっかけは、彼が「うまれつきみがるだったから すぐにとぶのが わしらのむれで いちばんうまくなった」ことでしょう。今まで馬鹿にしていたのに、ふと気付くと抜かれていた・・・こんな時に素直に受け止められない人間の心の醜さがうまく描かれています。そして、誰にでもそんな両方の側面(他の人より少し劣っていること、他の人より秀でていること)がありますから、誰でもターゲットになるのでしょう。
いじめる側がだんだんエスカレートしてきて、後に引けなくなる様子もよく伝わってきます。でも事件後、「おまえをおいはらおうとして、いっただけなんだ。ほんきでつきまでとぶなんて、かんがえもしなかった。ゆるしてくれるかい?」と言えた「わし」は勇気があります。誰でも自分の非を認めるのは好みませんから。月まで飛ぼうとした小さなわたりがらすも勇気がありますが、そうせざるを得ない状況だったわけですから、勇気の種類が違うような気がします。
「くちごもりながら」も上述の謝罪ができた「わし」だからこそ、年をとってからもこのことを良く覚えており、また人に話して聞かせる権利も勇気もあるのでしょう。ちいさなわたりがらすが主人公のようで、やはりこの絵本の本当の主人公は「わし」だと思います。
子供に読んで聞かせるなら、あまり小さなうちではない方が良いように思います。いじめられても、月まで飛ぶ勇気を出せば仲間に入れてもらえると理解するような年齢の子には少し危険なような気がします。事件を通じて「わし」の心の成長を読み取れる年齢になってからの方が良いと思いました。