お話は、教科書にもよく取り上げられているので宮沢賢治の代表作として、どなたも良くご存知のもの。・・・となると、絵本の醍醐味は挿絵が物語の世界観とマッチしているかどうかにかかっています。
スズキコージさんの絵は、黒が印象的に使われていて、版画のような影絵のような何となくレトロな雰囲気で、お話にとてもよく合っています。表紙に描きこまれた様々なモチーフは、お話の中で重要なカギを握るもの。山の中奥深くっ分け入ったところにある山猫軒は、摩訶不思議な世界。二人の紳士は自分たちの身に危険が迫っていることも知らずに、その不気味な店の中をどんどん進んでいきます。
山猫軒のおどろおどろしい雰囲気を上手に醸し出したスズキさんの絵と一緒に読み進めると、そのスリルが十二分に味わえます。扉に書かれた注文通りに、能天気に進んでいく紳士たち。そののんきさとは裏腹に「この二人の解釈はなんか違うんじゃないの?」と思い始めてからの、読み手(聞き手)にじわじわとくる戦慄の高まりは、世代を問わず楽しめることでしょう。