「おまえ、生まれてこなければ良かったよな。」
兄の一言で失語症になったあすか。
長男だけに愛情を注ぐ母親の静代。
壮烈な設定ですが、教育畑を職歴し、カウンセラーでもある青木さんが実在の少女から発想した物語だそうです。
あすかは祖父母の住む田舎に移り住み、祖父母の愛情の中で自分と声を回復します。
しかし、この物語はきれいごとに終わらない、心象分析があります。
あすかの母親も、あすかにとっては救い主だった実の母親に同じ苦しみを強いられていたのです。
親として読んだとき、自分が子供に対してどのような親であるか。
考えさせられます。
自分も大人でありながら子でもあって、親でありながら生身の人間なのです。
エゴも喜怒もあって、わが子の立場に立てるほどの自信もない。
あすかは、認められようと苦しんでいた自分から、自分を解放することで声と強さを得ることができました。
子どもは子どもであると同時に人間なのです。
この視点は、子どもにとってとても素晴らしいメッセージです。
この物語を読んでいて、私はあすかの立場に立つこともできたようです。
あすかというよりも兄の直人の立場かもしれない。
感情移入しやすくて、それぞれの人間性がくっきりしているから、疑似体験できるようなお話です。
でも、この物語は自らを省みることで、本当のものになるのだと思います。
中学生にお薦めです。
初版が出てから15年ほどたって、現在も姿を変え読まれているお話。
レビューがなかったのはなぜでしょう。