「でんせつのきょだいあんまんをはこべ」で話題のよしながこうたく先生の迫力ある絵に期待し、読みました。
「今昔物語集」の説話を種に書かれたこの作品は立松和平さんらしい作品だと唸りました。
これが遺作になったとは、残念です。
昨年度の小学校の「卒業おめでとうのお話会」で、最後に司馬遼太郎の「二十一世紀に生きる君たちへ」を紹介しました。
彼もまた、昔も今も変わらないことは“全ての生き物は自然に依存しつつ生きている”こと。
“人間も自然によって生かされてきた”こと。
先人は、“自然を畏れ、その力を崇め、自分たちの上にあるものとして身を慎しんできた”こと。
等々、力強く筆で訴えています。
こちらの作品を読み、絵本の形でも、こんなに子どもたちに切々とメッセージを語りかけられるのかと感動しました。
今では想像もつかないほどの大きな木が、その木の陰になる村の稲作の生育の邪魔になると切られていまいました。
人間の生活は潤ったかに見えましたが、都のはずれの森の鬼たちが怒り出し会議を開きました。
この鬼たちの姿・様子は迫力のある絵で恐ろしいのですが、彼らの下した決断のなんと賢く寛容な事か。
彼らのなんとも可愛いらしく愉快な人間への警告とも言える働きかけに小さな読者さんは喜ぶことでしょう。
人間たちは気づき、大木へ謝りお祓いをします。
ここで本来は“めでたし めでたし”なのでしょうが、立松作品は自然への畏れが薄くなった現代の私たちへのダイレクトなメッセージをもって、お話を閉じています。
司馬さんのいうとおり、“人間は決して愚かではない。自然に対し、いばりかえっていた時代は、二十一世紀に近づくにつれて、終わって行くに違いない”というあくまでも人間を信じた気持ちを裏切りたくないものです。
高学年にお薦めだと思います。