まだその名前が日本と呼ばれていなかった頃、飛鳥の時代のおはなし。
海の向こうから、仏教というあたらしい文化が入ってきました。
この世の有り様、人の有り様を、
真理の身代わりとなられた釈迦という仏に学ぶことで
すべての苦しみから解放される、そう努めれば
誰でもが等しく得られるとされた価値観でした。
仏さまの国はそれはそれは美しいと、経典に記されていましたから
仏師たちは命がけで、美しさを求めました。
主人公の若者、若麻呂もそのように努力します。
しかし若さゆえ、外見にばかりとらわれ、やがて行き詰まります。
こころの鎖を解いたのは、玉虫の存在でした。
子どもの手に捕らえられていた、一匹の玉虫を見てからというもの、
昼も夜も玉虫採りに明け暮れ、とうとう気がふれたと噂される始末。
本当は玉虫に、玉虫以上の美しいものを山と見せられ
自身の考え、こころの未熟さに気付かされたのです。
極上の玉虫厨子を仕上げた後、若麻呂は姿をくらますのです。
おはなしは長いですが、決して難しい絵本ではありません。
幼い頃に知る、感じる、考える、その大切さは量り知れませんから。
奈良の都の空気を、今に運んでくれた平塚さん、太田大八さん、
童心社のみなさんに感謝です。