絵本編集者の末盛千枝子さんは、この絵本の作者ゴフスタインについて「どこかに悲しみの影があるというか、悲しみのひとはけが塗られているから」彼女の本が私たちの心を打つと言っています。
「悲しみのひとはけ」というのは美しい言葉ですが、とても難しい言葉だとも思います。
何故ならゴフスタインの絵本には特に悲しいことが描かれているわけではありません。
むしろ「仕事」をテーマに描いている作家ですから、もっと強いものがあります。
けれど、末盛さんの言うようにゴフスタインの作品には「悲しみのひとはけ」を感じます。
それは何故か。
おそらく私たちが生きるということの中に避けることのない「悲しみ」があるからではないでしょうか。
私たちは必ず死を迎えます。そのことによる別れの「悲しみ」は誰にでもあります。
ゴフスタインの絵本の大きなテーマである「仕事」もまた私たちが必ず受け持つ営みですし、ゆえにそこには「悲しみ」も生まれる。
そのことを感じとって、末盛さんは「悲しみのひとはけ」と表現したのではないでしょか。
原題が「NATURAL HISTORY」というこの作品はもっと広い世界を描いています。
とても美しくて、「遠くからはとても平和に見える」私たちの星。けれど、そこでは人々が殺しあったり自然を壊したりしている。
「豊かさをわかちあおうと」生まれてきたはずなのに。
そして、ゴフスタインはこう強いメッセージを出しています。
「すべての命を苦しみと恐れから守るのだ!」。
谷川俊太郎さんの訳がゴフスタインと共鳴し合う瞬間といっていい。