キリスト教圏のお話しながら、はじめに頭に浮かんだのが「慈悲」でした。
見返りを期待しない。
傾ける愛。
今自分にできる精一杯の事をする。
いつくしみ、あわれむ心。
まあ、勝手ながら、「慈悲」も「アガペー」も通ずるものがあると解釈しています。
貧しいおじいさんの家に、お腹を空かせ寒さに凍えたねこが。
暮らし向きがぎりぎりの様子のおじいさんですが、ミルクを与えバンを与え、…。
弱々しく可愛らしいちいちゃな命に、目を細める思いで読んでいましたが、もっともっととねだる恐ろしい食欲に妖気すら感じる不気味さも覚えました。
いっぽう、明日のおじいさんは、どうするのかと気がかりでした。
右手に自分のものを確保しつつ、左手で施しをするのでは無く、両手にあるものを全てこのねこに与えます。
なんて心地がいいんだろう。
なんてしずかな気持ちだろう。
なんて心がいっぱいなんだろう。
おなかがぺこぺこなことを忘れてつぶやくおじいさんのこの言葉に、「愛の実践」の充実感が伝わってきます。
ラストの奇蹟は、黒猫という“試練“を遣わした神の存在の証明でしょうか。
山内先生の絵が、子猫のリアルな描写と、見えぬものの有り難い存在を感じさせてくれる素晴らしい絵でした。