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絵本紹介

2023.03.24

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【最終考察】『100万回言えばよかった』を『100万回生きたねこ』で読み解く

3月17日に、感動の最終回を迎えたTBSドラマ『100万回言えばよかった』。14歳で出会い、中学卒業と同時に別れ、成人してから再会した相馬悠依(井上真央)と鳥野直木(佐藤健)。ふたりは、なぜそれまで一緒にいなかったのだろうかと思うほど強く結ばれた、『100万回生きたねこ』のとらねこと白いねこのようになりました。
※この記事はドラマのネタバレを含みます。
 
しかし直木は、親に見放された子どもたちを巡る犯罪に巻き込まれて、命を失ってしまいます。幽霊となった直木は、自分の存在を感知できる魚住譲(松山ケンイチ)の力を借りて悠依の傍に残り、魚住と悠依と協力して自分の死の真相を突きとめました。これで直木は消えてしまう……そう思っていた悠依の前に、実体の直木が現れるーーというのが、最終回冒頭までのストーリーです。
 
姿が見えて、声がきこえて、手を繋いで歩ける直木と一緒にいられる時間を「神さまが与えてくれた奇跡」と受け止め、お別れまでの時間を有意義に過ごしたふたり。最後は、中学生の時にふたりで訪れた懐かしい浜辺に向かいます。


本当にこれが最期。そうなってようやく、愛の言葉を伝えられた直木。そしてその言葉を、しっかりと受け止める悠依。そんなふたりを優しく照らしていた朝日のような赤い装丁が美しい『100万回生きたねこ[45周年記念限定版]』が、好評発売中です。
 
最終回まで通して、人の生き死にについてさまざまな感情を投げかけてきたシーンに登場した、絵本『100万回生きたねこ』が持つテーマ性や表現から、ドラマ『100万回言えばよかった』が描いた「生と死」について考察します。100よかロスの方、ドラマ未視聴の方は、ぜひ各配信サイトでもう1周楽しむネタとしてお読みください!

  • 100万回生きたねこ[45周年記念限定版]

    出版社からの内容紹介

    佐野洋子の不朽の名作絵本『100万回生きたねこ』は2022年に発売45周年を迎えました。

    窓あきの赤い函に入った瀟洒な布装、タイトルの金箔押しなど、
    持っているだけでうれしい特別な本ができあがりました。

    いまだけ手に入る名久井直子デザインの限定版。
    プレゼントにも、自分のための愛蔵版としてもぴったりの『100万回生きたねこ』です。

    *2000部限定(シリアルナンバー入り)
    *とらねこの特大ステッカー入り
    *サイズ 左右20センチ×天地18.5センチ

前々回の考察記事を読む

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『100万回生きたねこ』とドラマに共通する「生の不平等」と「死の平等」

直木の死は、親と一緒に暮らすことができない少女たちを搾取していた大人が、現在の自分の居場所を守るため、過去の自分の罪を隠すために行った悲しい結末でした。直木が善意で行動したことが、不幸な結果を招いたことは、本当に理不尽でしかありません。このようにドラマ『100万回言えばよかった』では、「生の不平等」を体現する存在として、尾ア莉桜(香里奈)や高原涼香(近藤千尋)をはじめとする、家庭に居場所を持てなかった子どもたちが登場します。
 
人は、生まれるところを選ぶことはできません。そして生まれながらに持てる者と持たざる者がいて、社会的・経済的格差に苦しめられ、困窮している人もいます。その不平等のしわ寄せが女性や子どもに向きやすいということ。一方でそんな子どもたちに救いの手を差し伸べる広田夫妻(春風亭昇太、桜一花)のような里親家庭や、池澤英介(荒川良々)が開いていたような子ども食堂があること。辛い状況を乗り越え、直木や悠依のように自立する子どもがいることを、ドラマでは端的に、そして丁寧な配慮を持って表現されていました。
 
病気で亡くなることも、交通事故で命を落とすことも、すべて理不尽な死。それは『100万回生きたねこ』でとらねこが白いねこに出会う前に、100万回もどうやって死んだのかを語っていることに似ているのです。

ⓒJIROCHO, Inc. / KODANSHA

とらねこは、王さまのねこだったときに戦争に連れて行かれ、流れ矢に当たって死にます。王さまは、とらねこを大切にしていなかったのでしょうか? それとも大好きだから一緒にいたかったのでしょうか?


どうすればとらねこは死なずに済んだんだろうか? 自分ならどうしただろうか? 絵本には、そんな疑問が次々と浮かぶ、不条理なシチュエーションが次々と描かれています。
 
しかし、どんな死に方だろうと「死」は「死」でしかありません。そういう意味で平等だと語ったのが、譲の姉・魚住叶惠(平岩紙)でした。

「死は理不尽だよ。だけどある意味平等。平等じゃなきゃ、いけないと思う」
※TBSドラマ『100万回言えばよかった』よりセリフ引用

どんな道筋であれ、「生」の行き着く先は「死」。そして「死」は生きているときに持っているモノに関わらず、誰にでも平等に訪れるものだという叶惠の言葉の裏には、「だから私達は、自分なりにせいいっぱい生きなければいけない」という「デス・エデュケーション(死を通してよりよく生きる事を考える教育)」の考えが込められていると感じました。
 
「デス・エデュケーション」は、命の終わりを正面から見つめることで、生涯をよりよく生きることを目指そうという考え方で、日本では、1982年頃に、上智大学名誉教授のアルフォンス・デーケンさんが「死の準備教育」を提唱し、余命宣告をされた人の心のケアの重要性を訴えたことから、少しずつ広まってきたようです。
 
ちょうどドラマが放映されていた1〜3月は、震災や戦争など、日本でも世界でも悲しい出来事がたくさん起きた時期です。それら理不尽な出来事で大切な人を失った人の気持ちを代弁するかのように、2か月をかけて、直木が死んだ理不尽さに泣いて、怒って、悲しんで悲しんで、事実を受け入れた悠依。最終話は、身近な人の「死」を受け入れ、己の「生」に向き合う人すべてに差し伸べられて欲しい「救い」を表現したかったのではと感じました。それについて、続けて考察していきます。

生きていく力を奮い立たせた「赦さない」選択と心を慰める「救い」

大切な人を亡くした直後は、足元がぐらつくような喪失感に襲われたり涙が止まらなかったりと、激しいショックに襲われます。心に大きな傷を負って生きる力を失い、まさに『100万回生きたねこ』のとらねこのように、泣き暮らした末に死を迎えることだってあるのです。
 
でも悠依はそうなりませんでした。これまで、とらねこを引き合いに出しては「私なら元気ピンッピンに生きて欲しい」と言っていましたが、理想と現実は違うもの。現に第1話で直木の死を魚住にほのめかされたときは、「信じない」と強く否定し、直木が生きているかもしれないという希望にすがり、幽霊になった直木の存在も認めませんでした。
 
しかし、魚住を通して伝えられる直木の言葉が真実味を帯びるのに合わせて、熱を伴う身体の触れ合いがない状態に不安が募り、たびたび沈んだ様子をみせるようになります。実はこの“静かな悲しみ”の状態が、生きている人間がもっとも「死」に近づくタイミング。場合によっては、後追いをしたり鬱になったりすることもありますが、悠依は死への対処法を自分の中で持ち、なによりも、直木の命を奪った犯人を赦さないという強い気持ちがあったから、立ち直る道筋を歩めたのでしょう。
 
そうできたのは、夫を交通事故で亡くした宋夏英(読み「ソン・ハヨン」、シム・ウギョン)の支えがとても大きかったと思います。夫・祐鎮(ウジン)と短い間しかいっしょに過ごせなかったハヨンの死への対処法は、彼女の激しい恋心の裏返しかのように劇的でした。ハヨンは、夫の写真を全部捨て、夫との思い出をすべて夢だと思うことにしたと、第6話で悠依に語っています。その方が楽だったと。
 
その後ハヨンは、夫の命を奪った原田弥生(菊地凛子)の出現で、自分の心の中にある悲しみと怒りに向き合うことになります。幽霊なんて人の幻想だと断じたことや、謝られても赦せないと静かな怒りを示したハヨンの態度から、これまで彼女を生かし支えていたのは、理不尽な死への怒りがあったからだろうなと感じました。
 
怒りを持ち続けるのは、かなり大変です。そんな彼女に「救い」をもたらしたのは、祐鎮(ウジン)そっくりの魚住との対話でした。誰にも、それこそ夫にも言えなかった自分の想いを涙ながらに口にして、最後は「サランヘ(愛してる)」と、憑きものが落ちたかのように眠ったハヨン。人は悲しみや怒りなど、負の感情をいつまでも心に抱えていると、ゆっくりと心を蝕まれていきます。彼女のように気持ちを言葉にして吐き出すのは、心の回復にとってもよいこと。ここで『100万回言えばよかった』というドラマのタイトルには、愛のささやきだけではない、もうひとつ大切な意味が込められていたのかと気づきました。悠依も、直木と自分の言葉が「救い」になったのかな……そう思えるラストシーンに、拍手を送りたいです。

ドラマで描かれた悠依やハヨンの立ち直りの様子は、絵本『100万回生きたねこ』に対する、ひとつのアンサーだと思います。

大切な人を亡くした“静かな悲しみ”の中にいる方の慰めに、ドラマにはまった人へのプレゼントに、愛する人へのプロポーズにぴったりの絵本『100万回生きたねこ[45周年記念限定版]』。[45周年記念限定版]は限定2000部。販売も一部の書店、ネット書店でのみになります。ぜひこの機会に、手元に迎えてあげてください。

文・構成/ナカムラミナコ

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