のりもの好きな子大集合!
インタビュー
2024.10.08
実りの秋。秋の味覚の代表といえば、やっぱりきのこです! 『ほしじいたけ ほしばあたけ』には、たくさんのきのこたちが登場します。2014年に第36回講談社絵本新人賞を受賞し、15年の刊行からじわじわとファン層を広げてシリーズ化。今年9月には6作目となる『ほしじいたけ ほしばあたけ まぼろしのいずみ』が出版され、根強い人気を誇るシリーズの原点となった一作です。朝日新聞社の本の情報サイト「好書好日」より、作者の石川基子さんのインタビューを紹介します。(インタビュー:柿本礼子、写真:鈴木啓太)
この人にインタビューしました
愛知県生まれ。京都教育大学特修美術科卒業。「子どもの本専門店 メリーゴーランド」の絵本塾で絵本作りを学ぶ。第12回ピンポイント絵本コンペ最優秀賞、第35回講談社絵本新人賞佳作、本作で第36回講談社絵本新人賞を受賞。造形教室講師として、子どもたちに一緒に遊んでもらっている。
――講談社絵本新人賞では、審査員の絵本作家・大島妙子さんから「お話のくだらなさに対して絵の濃ゆさがハンパない」とコメントされたそうですね。ほししいたけの老夫婦が主人公という奇想天外なアイデアはどこから生まれたのですか。
もともとイラストレーターを目指していました。でも出版社に持ち込んで営業をして、というところまでの自信がなく、自分ができそうなコンテストに片っ端から応募していました。いわゆる公募マニアです。
この時もコンテストで何を描こうかなと、落書き帳にあまり考えずにメモをしていたんですね。きのこを沢山描いていた時に、たまたま「干ししいたけ」に濁点を打ってみた。すると「じいたけ」になり、じいさまの形をした干ししいたけのアイデアが降りてきました。
――通われていた、四日市市の「メリーゴーランド絵本塾」で、ほしじいたけを登場させた作品を課題として提出したそうですね。最初のプロットは、教室に行くまでの電車の中で描いたのだとか。
ほしじいたけを主役にと思っていましたが、なかなかお話はまとまりませんでした。手ぶらで出席するのは授業料がもったいないから、とりあえず出してしまえ〜と、半ばでっち上げたような感じでした。そこから新人賞に応募するまで、さらに出版するまで、ラフは何度も描き直しました。
最初の物語で考えていたのは、お話の世界では「シワシワ、カサカサがいい」という、価値がある意味逆転していることを想定していました。彼らにとっては、変身してシワがなくなってしまうのは、大変なことです。しかし、絵本塾で先生や生徒さんたちに読んでもらったら、その世界観を捉えてもらえませんでした。その後、同じ塾に通っている友人から「変身後のしいたけは弱ってしまう(腐りやすい)から、元に戻らないといけない、としたら」とアドバイスされ、なるほどと思いました。干ししいたけは、シワシワに干すことで保存性を高めている、つまり「長生き」しているわけですから。このようにして、少しずつ設定を固め、お話を前に進めることができました。
強く変身したままでいいではないか、という意見もありましたが、彼らはこの「ほしじいたけ・ほしばあたけ」の状態が好きなんです。いまの自分たちがいい、ということは守りたいと思いました。
何度も描きなおす中で、客観的な意見や、第三者の目は必要だなということを、しみじみ感じました。絵本を作るときは、読者としての目と、作者としての目、両方なくてはならないと言われますが、私はアイデアが浮かぶと、どうしてもそれに引きずられてしまって「これはもう、面白いぞ」と視野が狭くなってしまいます。他の展開を考えられなくなってしまうんですね。
――読者から届くカードは、子供にまじり、大人や高齢者からのお便りも少なくないそうですね。「孫や子どものためでなく、自分のために買った。お話に爆笑、同世代の“ばあさん”友だちに送った」という70代女性からのファンレターもあったと聞きました。
あからさまに教訓めいた絵本は書きたくないなあとは思っています。「ほしじいたけ」の絵本を、どなたかがブログで「なんの教訓もない」と評していて、それは逆になんだかうれしかったですね。
くだらなくて、なんの教訓もない絵本から、「老いも悪くないな」とか、「躊躇なく他人のために行動するってすごいな」とか、「乾物はいいな」とか、色々と感じてくれる人もいます。そうして自由に、さまざまに感じていただけるのが、とてもうれしいです。
――昔から絵は好きだったのですか。絵本作家となるまでの道のりを教えてください。
大学は英文科と美術科、どちらも行きたくて、最後まで迷って美術を専攻しました。卒業してからは中学校の教員を数年間務めましたが、長男の出産を機に辞めて、専業主婦になったんです。
本当はイラストレーターになりたいと思っていました。妹(イラストレーターの故・津田さと子さん)は全盛期の90年代にすごく活躍していて、そういうのを見ていて「自分もイラストの仕事ができたらいいな」と思っていたんです。それを妹に相談したら、「お姉さんはクライアントにへこへこするより、自分の好きに描いたほうがいい。あまりイラストレーターには向かないと思う」と言われたんです。一体私のどの辺りを見ていたんでしょう……。
子育てで忙しかったこともあり、積極的に出版社に売り込みに行くことはありませんでしたが、公募を見つけては、自分ができそうなコンテストに片っ端から応募していました。そこから、ぽつぽつとイラストの仕事をするようになりました。でも自分の描く絵はタッチがバラバラで、今でも「自分のタッチ」というものがないように感じています。
当時は、絵本の挿絵を描かせてもらえないかと思っていましたね。自分にはお話が作れるとは思えませんでした。お話を作るには、特別な才能が必要だと思っていました。でも、絵本で必要とされているような可愛い絵はどうしても描けなくて……。どことなく絵に「毒」がしみ出るみたいです(笑)。なかなか依頼がいただけませんでした。
出版社に行く度胸もなく、ひたすら公募ガイドを見て、出せそうなものに出していました。イラストだけでは数に限りがあるので、絵本のコンテストへも少しずつ出品してみることにしました。絵本のコンテストは「野菜」とか「お弁当」とか、テーマが決まっていることが多く、話が考えやすいんですね。テーマをもらって話を作る練習をし、腕慣らしをしていきました。
3人の息子たちは皆、家を出て自立しました。私は息子たちが出て行った部屋の学習机で作品を作っています。もう少し若いうちにデビューできていたらよかったな、と思うことはあります。リアル子育て中の人は、絵本のネタがごろごろ転がっていていいなあと思ったりもしますね。
でも、タイムマシンで子育てまっ最中に戻ったとしても、すべてをほったらかして締め切りに追われつつ絵本を仕上げるということは、自分には無理だと感じています。今だからできたことですし、このタイミングで絵本作家になれたことはご褒美のように思っています。
「ほしじいたけ ほしばあたけ」シリーズは現在6冊刊行中!
みどころ
きのこむらのほだぎのさとに住む、ほしじいたけとほしばあたけ。
きのこ暦123年生まれのふたりは、きのこむらのきのこたちに慕われる長老きのこです。
ある日のこと、ほしじいたけが裏山にたきぎひろいをしていると、
むらのこどもたちのひとり、タマゴタケが
崖下に落っこちてしまったというのです。
「こりゃ たいへんじゃ!」
からからに乾いた体を使って、ふうわりと崖を飛び下りるほしじいさま。
無事にタマゴタケの元に到着です。
でも、ほしじいさまの軽さでは、タマゴタケと一緒に崖を上がることはできません。
「いたしかたあるまい。」そうつぶやいたほしじいさまが、
崖のわきに流れる湧水にそろりとつかると……。
実は意外と多い「きのこの絵本」の中でも、
世にも珍しい「ほししいたけ」が主人公の本作。
生のしいたけにはない、特性を十二分に発揮して、
ほのぼのしているのに、どこか脱力してしまう、
何とも不思議な“味のある”ほししいたけ絵本です。
この書籍を作った人
愛知県生まれ。京都教育大学特修美術科卒業。「子どもの本専門店 メリーゴーランド」の絵本塾で絵本作りを学ぶ。第12回ピンポイント絵本コンペ最優秀賞、第35回講談社絵本新人賞佳作、本作で第36回講談社絵本新人賞を受賞。造形教室講師として、子どもたちに一緒に遊んでもらっている。