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- ためしよみ
インタビュー
2024.11.19
『第1回 読者と選ぶ あたらしい絵本大賞』の開催に合わせてスタートした連載「絵本ナビ編集長イソザキの『あたらしい絵本大賞ってなに?』」。vol.2からは特別審査員の方へのインタビューをご紹介していきたいと思います。様々なジャンルでご活躍されている皆様が、それぞれの立場から考える「あたらしい絵本」とは? 前編と後編に分け、絵本への思いや応募作品への期待など、たっぷりお話いただいています。お楽しみに!
最初にご登場いただくのは横山だいすけさんです。横山さんといえば「11代目うたのおにいさん」のだいすけお兄さんとして大活躍されていた姿が強く印象に残っている方も多いですよね。そんな横山さん、実は大の絵本好きだということはご存知でしたでしょうか……?
千葉県出身。2006年に国立音楽大学音楽学部声楽学科を卒業。幼い頃から歌が大好きで、小学校3年生から大学卒業まで合唱を続ける。劇団四季時代は「ライオンキング」などの舞台に出演。NHK Eテレ『おかあさんといっしょ』では番組史上歴代最長となる9年間“歌のお兄さん”を務める。卒業後はドラマや、声優として「リメンバー・ミー」などに出演。そのほかCM、舞台など活躍の場を広げている。ソロアーティストとしては初のオリジナルアルバム「歌袋」や童謡カバーアルバム「だいすけのどうよう」を発表。また2024年4月に初の作詞にチャレンジした楽曲が含まれるニューアルバム『笑顔にドッキューン!』をリリース。
―――「あたらしい絵本大賞」特別審査員をお引き受けいただき、ありがとうございました。横山さんは、NHK「おかあさんといっしょ」の11代目うたのおにいさんをつとめ、卒業して8年目になった現在も「だいすけお兄さん」として親しまれています。最近は、どんなお仕事をされていますか?
様々な仕事をしていますが、卒業からずっと続けているのは、子どもと家族向けのファミリーコンサートです。ミュージカルやオーケストラなどいろいろな形で続けていますが、最近は特に、0歳から参加できる「オーケストラといっしょ!〜0歳からのコンサート〜」が増えました。
――絵本も「0歳から」楽しむものがありますが、赤ちゃんにオーケストラの音楽を聴いてもらうというコンセプトでしょうか。
どちらかというと、0歳のお子さんといっしょに親御さんたちも楽しみましょうというコンセプトです。0歳の赤ちゃんは泣くのが仕事。それが心配で外出をためらっている親御さんたちに、「赤ちゃんが泣いても、席を立たなくてだいじょうぶだから、いっしょに音楽を楽しみましょう」というものです。
コンサートで演奏する楽曲は、大人の方が「この曲知っている」となるような、だれでも一度は耳にしたことがある曲ばかり。僕も歌手として、司会者として参加させていただいています。童謡からみんなが大好きな歌まで、幅広いジャンルの曲を、オーケストラと生の歌声を届けるコンサートで、「本物に触れてほしい」という思いが込められています。
――全国各地で開催されているのですね。
そうなんです。本当にここ数年で、開催数が増えていますね。過去のコンサートを知ったオーケストラの方が、「こんなにいいことをやっているんだ。じゃあうちでもやりたい」という風に、全国に拡がっていったという感じです。
それだけではなく、僕自身がいろんなことに挑戦することで、だいすけお兄さんや横山だいすけを知っている人が、「だいすけお兄さんがこんなこともがんばっているんだ」、「じゃあ私もがんばってみようかな」と思うきっかけになればいいかなと思って。
僕は子どもが大好きなので、子どもに関わる仕事をやっていきたいと思っています。だから、いろんなジャンルに挑戦していますね。絵本が大好きなので、絵本の読み聞かせをしたり、活動中に自分が読んだ絵本の感想を伝えたり。僕が感じた素直な気持ちを、子育て中の親御さんはもちろん、いろんな人に伝えていくことで、一冊くらい興味を持ってくれたらいいなと思い、発信しています。
――歌も絵本も好きという横山さんが感じる、絵本と歌の共通点はなんですか
作曲家の先生に教えてもらったことですが、子どもの歌は歌詞とメロディが簡単だからこそ、聞いている人に「歌詞の情景」が届きます。
例えば「友だち」というフレーズで表現したいのは、元気なお友だちなのか、近くにいて温かい存在なのか。言葉ひとつでも、歌の中でどんな「友だち」を届けたいのかを落とさないように、聞いてくれる人に届くように伝えることを大事にしています。
そういうところでは、絵本も短い文章でストーリーを紡いで、読み手と聞き手に届けてくれます。そして絵が、おはなしのすべてを表現しています。だから絵本を読むと想像力が働いて、絵本の世界へと心が飛んでいく。そういうところで、歌と絵本は似ているなと感じました。
――そうですね。絵本の言葉は、口に出すとどんな音の響きになるのかを、すごく考えられてつくられているなと思います。童謡や歌が、物語性のある絵本になっているものもありますね。歌がある場合、横山さんはどんな風に読んでいますか?
僕の場合は、知っている歌の絵本でも、まずどんな絵が描かれているかに注目します。絵本になったら、絵も言葉も、その絵本の世界のもの。それがひとつの作品であり、メッセージだと思うので、やっぱり絵を見て、どんな風に読むのかを決めると思います。
――歌ではなく、絵本として味わうということですね。
そうですね。
――歌をベースにした絵本を読もうとすると、つい「どんな風に歌ったらいいのか」と迷ったりしてしまうこともありますが、歌と絵本、それぞれ違う役割があって、それぞれ楽しむという時間が生まれることがあるんですね。
絵本のストーリーは決まっていますが、実は読み手の読み方ひとつでおはなしをどんな色にも変えられるし、受け手の反応も違いますよね。
親になって初めて気づいたのですが、同じ絵本でも、僕が読むときと、僕以外の誰かが読むときでは、テンポ感も声色もまったく違うんです。読み手によって、おはなしの世界観に違いが出るのがおもしろいなと感じましたね。
――確かに、お父さんとお母さんの読み方は違うというのは、あるあるです。
読み方に正解はないので、違っていていいと思います。もちろん、聞きやすい声色とかテンポ感があるかもしれませんが、子どもにとっては、お母さんの声やお父さんの声で読んでもらうというのが、なによりも一番安心できる。その安心感が、絵本との思い出になったり、楽しさにつながっていくのではないかと思います。まさに上手い下手ではなく、お父さんやお母さん、身近な家族の誰かに読んでもらうことが、すごく大事なんだなと思いますね。
――横山家では、お父さんが読む本が決まっていますか?
決まっていません。むしろ、日によって同じ絵本をお母さんが読むときもあれば、お父さんが読むこともあります。
――バラエティーを楽しんでいるんですね!
本当に、楽しんでいますね。僕の母も絵本が大好きで、自分で「絵本の会」を開催するくらい。妻の両親も絵本が好きで、どちらの実家に行っても山のように絵本があります。
――横山さんは、2021年3月から、雑誌「kodomoe」で「だいすけお兄さんのパパシュギョー!」で連載を持ち、子どもに関する仕事をしている方とたくさん対談されていましたよね。そんな横山さんにとって「絵本」はどんな存在ですか?
子どものころから身近にあった本。親が寝る前に読んでくれる、楽しい時間。それが「絵本」という存在ですね。大人になって「うたのおにいさん」として絵本と再会したときに、「絵本ってこんなにおもしろいんだ」、「絵本ってこんなにいろいろな世界に連れていってくれるんだ」と感動したんですね。
さらに親になってからは、絵本の多さにびっくりしました。本当に、絵本は読めば読むほどいろいろな発見があるし、いろんなことを教えてくれる。人生において、絵本は本当に必要なものだと、改めて感じましたね。
親が、子どもに絵本を読み聞かせしてあげることはとても大事なことだから、たくさん読んであげたいと思っています。きっと、多くの親御さんがそう感じたことがあるんじゃないのかなと。絵本をテーマ別に調べると、本当にたくさんの作品が出てくるんですよね。
――例えば、どんなテーマの本を探しましたか?
子どもが成長過程で「ごめんなさい」が素直に言えない時期がありますよね。本当にダメなことをした場合、親はどんな風に子どもに関わると良いのかとか、自分の言葉でどんな風に伝えたら良いか正解がわからないときに、絵本に助けを求めます。
子どもに絵本を読み聞かせていると、親の方が「そうか、これでいいんだ」と教えてもらえるんですよね。子どもに大人の意見を押しつけるのではなく、子どもに寄り添って理解できる内容の作品もあり、絵本から教えてもらうことは本当にたくさんあるんだなと実感しました。
――ときには絵本の方が、親や大人が言うことよりも子ども心に刺さることがありますよね。絵本を読むと、子どもなりになにかを感じ、吸い取ってくれる。そして親も親で感動したり。
それが、本当に素敵なことだなと思います。親は子どもに対する責任感があるので、直接言うと怒ってしまうことも。でも絵本を通すと、叱る言葉が素敵なフレーズに変わって、優しい温かい気持ちで包んでくれる。子どもだけじゃなくて、親も丸ごと包んでくれるような気がして……。絵本の存在に助けられていますね。
絵本を読んだときにわからなくても、子どもが困りごとを克服できている姿に気づいたときに、「あの絵本がきっかけかな」と感じることはすごくあります。
――読んだ絵本が、仕事に影響することはありますか?
ありますね。絵本は、現実世界では絶対に起こらないことを、絵や物語で表現していますよね。歌のストーリーも、絵本に似ているものがあるんですよ。
例えば、僕が大好きな絵本『ないた赤おに』では、人間と仲良しになりたい赤鬼のために協力した青鬼が、赤鬼のためを思って黙って旅に出てしまい、家に赤鬼宛の手紙を残しました。その手紙は、大人が読むと涙してしまうくらい温かい友情と、相手を思う気持ちであふれています。メッセージ性のある歌や優しい歌を歌うときは、『ないた赤おに』の手紙を読んで感動した気持ちを当てて、歌うことがありますね。
また、宇宙や恐竜など、自分が見ることができない景色や世界を描いた絵本を見ると、絵の印象が残っていて、宇宙や恐竜の歌を歌うときにパッと思い出して、歌うことがあります。絵本の絵はわかりやすいので、印象に残りやすいのかもしれませんね。
――横山さんにとって印象深い絵本はなんですか?
やっぱり『ないた赤おに』ですね。子どものときに、母親が泣きながら読んでくれたことを覚えています。
子どもにとって「鬼」は、悪者の代表格で、ちょっと怖い存在。そんな鬼に「人間と仲良くなりたい」と言われても、やっぱり子ども心に共感できなかったんです。だから、青鬼がわざと人間に悪さをして、赤鬼が人間に好かれるために「もっと強く叩いて」と言う姿よりも、「親が感動して泣いていた」という記憶が強く残っていました。
でも大人になって『ないた赤おに』を読んだら、青鬼が残した最後の手紙のところで号泣しちゃって。母が泣いていたのは「これか」と。絵本には、子どもならではの楽しみ方も大人ならではの楽しみ方もあって、その時々に感じるものが違っていてもいいと思います。それが僕の場合、大人になったら親と同じ状況になった。だから僕にとって『ないた赤おに』は、「親」を感じる作品なんだなと思います。
出版社からの内容紹介
いもとようこのセレクト&イラストで贈る大人になっても忘れたくない珠玉の名作絵本!
第2回配本「泣ける」名作を刊行!
人間と仲良くしたい赤おにのために、自ら悪役を買ってでる青おに。青おにのおかげでたくさんの友だちを得た赤おにでしたが、青おにがどうなったのか気になって訪ねてみると…。友情の美しさと孤独の哀しみを描いた童話の傑作。
――そんな風に、おはなしの一部分や、読んだときに思ったこと、見た光景などが断片的に残るのが、絵本のおもしろいところかなと思います。今も絵本が大好きということですが、自分のために絵本を選んだり買ったりしますか?
あります。子どもといっしょに本屋に行くと、子どもと親では、興味を持つものが違うんですよね。なので、「うちの子は今、こういうものが好きなんだ」と思いながら、自分は新しい作品やおもしろそうな絵本を探したり、本屋さんのおすすめはなんだろうと見て回ったりして、気がついたら夢中になっています。
ですから本屋さんではいつも、最終的に何冊買うのか、どの絵本を買うのかで家族会議をします。もちろん、「どれにする? パパはこれが欲しい」と主張します(笑)。
――それは、親が勝つこともあるんですか?
いえ、たいていは子どもの勝ちです(笑)。でもたまに「いいよ」と言われたときは、買ってもらいます。
――絵本選びの傾向は、親と子で違いますか?
やっぱり子どもは、その時々で気になるものが違うし、しょっちゅう変わりますね。一時期、図鑑絵本にハマって、虫が出てくる絵本にも興味を持っていました。子どもには、子ども自身が興味を持っているものや、成長に合わせたものを選ぶようにしています。
――ご自身がつい目がいってしまう絵本はありますか?
僕はやっぱり、表紙の絵の強さが気になります。最近、図書館で本を借りようと思ったときに、表紙の絵の強さで惹かれたのが、『めっきらもっきら どおんどん』です。「なんだこれ、絶対に読みたい!」と思った表紙でした。
――横山さんが本当に絵本がお好きなんだということが伝わってくるエピソードですね!さて、後編では『読者と選ぶ あたらしい絵本大賞』についてお伺いしていきたいと思います。
※横山だいすけさんインタビュー記事(後編)は、2025年1月7日頃の公開を予定しています。こちらもお楽しみに!
インタビュー: 磯崎園子(絵本ナビ編集長)
文: ナカムラミナコ