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日・中・韓平和絵本 へいわって どんなこと?(童心社)

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絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  『じぶんでつくるえがないえほん』広瀬友紀さん、大友剛さんインタビュー

絵本なのに「絵」が描かれていない!? それなのに読み聞かせで子どもたちの爆笑が止まらない!
2017年の発売直後から、子どもたちの心をぎゅっとつかみ、絵本では異例となる23万部を突破したベストセラー『えがないえほん』。
この度、7年ぶりに新作が発売されることとなりました。その名も『じぶんでつくる えがないえほん』。
なんとこの絵本、絵がないだけでなく、文字も一部消えていて、その消えている部分を自分でいろいろ想像して、言葉を入れ、自分だけの絵本を完成させるという画期的な一冊なのです。

『じぶんでつくるえがないえほん』を動画でご紹介

出版社である早川書房では、絵本の発売前に、4歳から8歳のお子さんを対象にモニターを募集し、『じぶんでつくるえがないえほん』を体験してもらいました。

今回、そのモニターのお子さんの書いた作品を東京大学で心理言語学を研究している広瀬友紀教授に見ていただき、『じぶんでつくる えがない えほん』が子どもにどのような影響をあたえるのかについてお話しを伺いました。

後半では、『えがないえほん』からこの本に携わり、『じぶんでつくる えがない えほん』の翻訳も手掛けた大友剛さんに絵本の魅力をお話しいただきます。

  • じぶんでつくる えがない えほん

    出版社からの内容紹介

    おバカな言葉で多くの子どもを笑わせてきた『えがない えほん』に、オリジナルの言葉を書きこんで遊ぶ本書。言葉や文字への興味を引きだし、想像力を育みます。その年齢だから書ける内容や覚えたての字など、お子さんの"今"を残せる一冊です。4〜8歳向け

この人にインタビューしました

広瀬 友紀

広瀬 友紀 (ひろせゆき)

私たち人間はなぜこんなに無意識かつ素速く、自動的に言葉を使いこなせているのか、そのとき頭のなかで何が起こっているのか、という問いのヒントをさぐる研究をしています。言語発達過程の子どもにも関心があります。著書に『ちいさい言語学者の冒険 子どもに学ぶことばの秘密』『ことばと算数 その間違いにはワケがある』(ともに岩波書店)、『子どもに学ぶ言葉の認知科学』(ちくま書房)。

「楽しみだけ、好きにおやりなさい」と大人が子どもに託す絵本

───広瀬さんは著書『ちいさい言語学者の冒険』の中で、言葉を身につける最中の子どもが見せる面白い間違い、珍プレーに着目し、その間違いがどうして起こったのか、言語学者の観点から分析・解説されています。今回、『じぶんでつくるえがないえほん』のような、言葉を自分でかきこんで、一冊の本を作る作品は、子どもたちと言語の関係にどのような影響をあたえるでしょうか?

自分の言葉で、人が笑った、反応した、というのは、言葉の素敵さ、万能さを、即座にかつ強力に実感できる体験だと思います。自分の言葉の力に目覚めた子どもたちは、そのため(主に、いかにもっと笑わせるか)の工夫をきっと友達と切磋琢磨しながら、笑い転げながら、追求していってくれることでしょう。

大人の世界で行われる言語のやりとりには、ものごとを正確かつ効率的に伝える、手段としての側面が大きいです。その一方、文字や音の織りなす美しさを追求するという芸術的な側面もあります。それらすべてのはじまりにはきっと、言葉そのものをつついたりいじったり、遊んだり反応を見るのに使ったり、という楽しみがたくさん転がっていたことでしょうが、この本では、全面「その楽しみだけ、好きにおやりなさい」って子ども達に促しているわけです。しかも、大人が。

正解とか、あるいは正解・不正解とまでいかなくても、先生に褒めてもらえるためにはこういうことをこう書くべきとかいうことにも、学校に行けば向き合わざるを得ないけれど、そんなこと気にせず、全部自分の好きなように決めて書き込んだっていいんだ、と言ってもらえる体験は、言葉を使ってただ楽しむ自分を肯定する気持ちにつながると思います。また、まだ学校に行っていない子ども達にとっても、言葉とは、笑いながら楽しむものだという出会い方ができるのはとても素敵なことだと思います。

───『じぶんでつくるえがないえほん』を子どもたちが実際に書いた作品を見て、率直な感想をいただけますでしょうか。

「どう? 面白い?」という心の声が聞こえてきそうです。きっと得意そうな顔をしていることだろうな。大人が笑う前に先に自分で可笑しくて笑い転げているかもしれないな。どんな顔をした子かな、どんなことして遊んでいるのかな、お友だちとはどんな話をしているのかな、という想像がやめられません。

『じぶんでつくるえがないえほん』を体験した子どもたちの作品を見て気づくことは?

───ここからは、モニターのお子さんの作品の中から、いくつか例を挙げて、広瀬先生のお考えを伺えたらと思います。 まず最初はこのページ。

───この2つは、3歳と8歳の女の子が書いたものです。文字を習得しているかどうかで、書く内容も変わってきているなと感じるのですが、この2人の書き方を見て、言語学的な観点から注目すべき点があれば教えていただけますでしょうか。

3歳のお子さんは、もし少し字を知っているなら、「ー」をどう読むか、想像がついているかもしれません。他の文字は難しくて書けないけど、これなら書けると思ったのかも。「ば」と「ふ」の間にこれをかいたら、「『ばふ』が『ばーふ』になったよ」「『ぶ』が『ぶー』になっちゃった」と大人が読んで再確認してあげたそのときが、その子にとっては、自分にも字が書けた、という記念すべき瞬間になるかもしれません。

あるいは、このお子さんはそもそも文字と意識してかいたわけではないかもしれませんし、エンピツで表せるのが水平な線しかなかったのかもしれません。でも、「ば」と「ふ」の間にこれをかいたら、「『ばふ』が『ばーふ』になったよ」「『ぶ』が『ぶー』になっちゃった」と大人が読んであげた瞬間、自分が書いたものはどうやら特定の音変化と結びついた、記号としての働きを持っている、ということに漠然と気がつくかもしれません。

8歳のお子さんは、文字を書くことはマスターしたうえで、文字表現の機能を最大限追求しているように見えます。大きさを変えたり、よくある効果音を駆使しつつ、誰も発音したことがなさそうな音を開発したり、外側の視点からのツッコミを入れたり。すでに印刷されている言い回しを直しているところに、独自の言語感覚が育ちつつあることがうかがわれます。

───次はこちらのページ。

───7歳の女の子と男の子が書いたページを比べてみます。女の子は白抜きになっている文字をカラフルな色で塗っているのが印象的で、男の子は文字を二重線で消して新しい言葉と追加しています。 この2つについて気づいたことを教えてください。

上の絵を描かれたお子さんは、色を駆使したりという工夫も楽しんでいることに加え、言葉で表現する対象のほうをいかにキテレツにするか、という、著者の狙いに、あうんの呼吸で応えている感じですね。別のページでは、おかしな音のオンパレードを促すことで、言葉という表現そのものができることの幅をお子さんと一緒に広げて遊ぶことができますが、このページでは、「ハイエナがキムチの声でほんを読み聞かせる」という、誰も思い付いたことがないような状況や内容もすきなだけ表すための力が言葉にはあるのだという、言葉の根本的な力を実感できるのですね。

下の絵を描かれたお子さんは「おばかさん」という言葉に、万能に面白いキーワードとして白羽の矢を立てて、どこまで使い倒せるか試しているのかな? 大人としては、あえて淡々と大真面目に音読して、「おばかさん」のトホホ感とのギャップを引き立たせることがきっと期待されていますよ!

───次は箇条書きで新しいルールを紹介するページ。こちらもお子さんによって個性が出ていると感じました。

───5歳と7歳の男の子が書いたページを見てみます。特徴としては3番目がどちらも排泄関係のことを書いていることでしょうか…。7歳の男の子は1〜3すべて排泄についてですね(苦笑)。排泄関係の言葉が大好きな子どもは多いように思います。親としてはやめてほしいと思うものですが、こうした言葉を書くことも子どもには大切なのでしょうか?

排泄系ワード、本当に子どもは大好きですよね。ある言葉を使うことで相手の反応、笑いだったり、「えっ!?」という戸惑いだったり、を間違いなく最大限引き出せるのだから、そりゃ使いますよね。3番目に至っては、むしろそう書くことを作者が狙ってのことかとすら思ってしまいます。これでお腹が痛くなるほど子どもが笑ってくれるなら幸せなことだということでしょう。

大人としてはいさめたくなる気持ちもありますが、そういう自分も「子どもの頃、それでよく笑ったな」なんて思ったりもして。排泄系のこうした言葉は、全面的にとがめるのでなく、むしろ「食事をしている人が聞いたら食事を楽しめなってしまう」「食事中でなくても、それをきいて嫌な気持ちになる人がいたら、そこでは使うのをやめるべき」「まじめにしないといけないところでまでそれを言うと、まじめにできない人だと思われることになる」という、状況に応じた配慮を覚える機会だと思えばよいかもしれません。(我が家ではそのような教育には失敗しておりますが...)

───最後は迫力満点なこのページ。

───5歳、男の子と7歳、女の子が書いたページを見てみましょう。 この2人の表現を見て、何か気づくことはありますか?

どちらのお子さんもオノマトペ(擬音語・擬態語)を使っていますね。音を写しとった言葉なので、直感的に書くことができます。音とイメージの結びつきは意外と共有されていているのですが「この音を使うと面白いぞ」とか「この音を使うとこういうイメージになるぞ」といった直感を駆使しているのがわかります。「どうしてこの言葉は面白いんだろうね?」といった疑問は話題にしやすいと思いますよ。

7歳のお子さんは「ぴぴぴぴぴぴぴぴ」という音をだんだん小さく書いていますね。この書き方にはきっと何か意図があって、お子さんは大人がそれをどう受け止めてくれるか期待していると思うんです。

この本は大人が音読する前提の本なので、大人をあやつれてしまうところも、楽しさにつながっていくのかなと思います。子どもが好き勝手書いたものを親御さんが大真面目に音読してみるっていうのは、子どもから大人へのチャレンジのようで面白いですよね。

年齢があがると「お小遣い〇円あげること」なんて書きこむ子もいるかもしれません。年上のきょうだいが悪知恵を吹きこんだりするのも、この本の面白さのひとつかもしれませんね。

───子育て真っ最中の親御さんに、この『じぶんでつくる えがないえほん』をどのようにお子さんと楽しむか、また子どもの言語発達を感じるためにはどの点に注目するとよいか、ポイントを教えていただけますでしょうか。

字の使い方が間違っていても、添削したりせず、内容や雰囲気だけで、面白さのいいとこ取りだけすればいいと思います。多少お下劣な内容にも、少なくともこの絵本の世界のなかではダメ出しはなしで。「○○ってどうやって書けばよいか」などの助言は、求められたときだけでよいと思います。

子どもは「この本はかきこんでいいんだよ、さあ書いて!」と言われても、尻込みしてしまうと思うんです。そんなときは最初だけ大人が全力でかきこんで楽しむ姿を見せるといいと思います。

大人の姿をみて子どもが「自分もやらせて!」と入ってくるような流れを作れるのではないでしょうか。大人が空欄を埋めて「こんなふうに書いてみたんだけど、うまくいかなかったよ、助けてくれる?」と声がけするのも効果的かと思います。

もし私だったら、自分用にも一冊用意して、子どもの想像を超えるレベルで笑わせてみたいです。

───大人が本気で楽しんでいる姿を見せるのは、すごく盛り上がりそうです! 今日はお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

大友剛さんインタビュー「この本の翻訳は予想をはるかに超える難しさでした」

続いて、このシリーズの翻訳を担当した大友剛さんにお話しを伺いました。

この人にインタビューしました

大友 剛

大友 剛 (おおともたけし)

ミュージシャン&マジシャン&翻訳家。アメリカ・ネバダ州立大学卒業。「マジック・音楽・絵本」の楽しさとメッセージを、子どもたち、家族、保育者へ届けている。また、保育者、図書館司書、教育者向けの講演会、研修会も行なう。翻訳絵本に『えがない えほん』『じぶんでつくる えがない えほん』『はずかしがりやのきょうりゅう クランチ』(以上、早川書房刊)、『ねこのピート』シリーズ(ひさかたチャイルド)、『カラーモンスター』シリーズ(永岡書店)など。こどもとのコミニケーションを専門とした『マザーズ・コーチング・スクール』MCS認定ティーチャー。

───『えがない えほん』の反響から早7年……。『じぶんでつくる えがないえほん』の発売、おめでとうございます。今回、どのようなきっかけで、この『じぶんでつくる えがないえほん』を手掛けることになったのですか?

原作者のB.J.ノヴァクさんが「The Book with No Pictures」を出版した5年後に「My Book with No Pictures」を出版しました。その直後に早川書房さんからお話をもらっていました。すぐにアメリカ版を取り寄せ読ませてもらいましたが、とてもワクワクしたと同時に、強い感銘を受けました。

───「My Book with No Pictures」がすでに発売されていたのですね。アメリカでこの自由度の高い作品を子どもたちがどのように楽しんだか、とっても気になりますが、この自由度の高い絵本を翻訳するのは、とても難しかったのではないでしょうか?

翻訳が相当難しいだろうことは、アメリカ版を取り寄せた時から予想していましたが、予想をはるかに超える難しさでした。

完成された絵本を翻訳するのと違い、子どもが手を加えることで完成させるものなので、一番苦労したのは子どもの想像力をどう引き出すかというところです。説明し過ぎだと子どもの発想の邪魔になる。とは言っても、説明がなさ過ぎれば作品として成り立たない。

子どもの発想や想像力を適度に刺激するにはどうしたらいいか。その頃合いが一番悩んだ点で工夫した点です。

───翻訳してく中で、大友さんが特にお気に入りだと感じたページ、こんなことを描いてもらいたいな〜と思って、文字を抜いたページを教えてください。

やはりこの絵本のクライマックスである、一番書き込みが多いページがお気に入りですし、子どもたちからどんな言葉が飛び出すか楽しみです。

───大友さんは、事前に開催したモニターでの子どもたちの作品を見た時、どのように感じましたか?

子どもたちがとても楽しんでくれているのがわかり、嬉しかったです。

完成された絵本の読み聞かせとは違った親子の会話が生まれたという報告もいただいて、すごく素敵だなと思いました。特に印象に残ったのは、お子さんの感想で「絵本に落書きして、楽しかった。」と感じてくれた子がいたことです。

それこそが『えがないえほん』と『じぶんでつくる えがないえほん』の面白いところです。 大人は様々なことを教えたり、注意したりしながら子どもの成長を支えます。しかし、それゆえに子ども自体の中から湧き上がる何かを潰してしまうこともある。

私たちは子どもに大人の常識を伝えながら、同時に子どもが我々の常識にとらわれ過ぎないことを伝えることも大事なことだと思うんです。おバカな言葉を言ったり、ダメだと言われていることもやってみたりする中で、親子で大笑いしながら子どもの自由な発想を促す手助けになれば良いなと思っています。

大人たちは子どもが創作を始める過程を、ゆっくり見守ってあげてください

───『えがない えほん』が発売されてから、大友さんはいろいろなところでこの作品を読んでこられたかと思います。演じ手として、この作品を読んでいるときの子どもたちの反応で印象に残っていること、驚きを感じたことを教えてください。

私は小児病棟の子どもたちに公演をすることがあります。『えがない えほん』の“きみは人類の歴史の中で一番素晴らしい子どもである”と伝えるページがあります。長い時間病院で過ごしている子どもたちにそのページを読み聞かせると、点滴のチューブを付けた細い腕を「いえーい!」と高々とあげるんです。

その光景を見たときは涙をこらえるのが大変でした。その話をB.J.ノヴァクさんとお会いした時に伝えたら、彼も全く同じ経験が何度もあると。私たちが強く意気投合したエピソードです。

『えがないえほん』読み聞かせの様子

───『じぶんでつくる えがない えほん』をどんな風に楽しんでほしいですか? 大友さん流のアイデアがあれば教えてください。

初めは理解しにくくても、子どもは徐々に自分の創作をはじめるようになるので、大人たちにはその過程をゆっくり見守っていて欲しいと思います。

時にはかなり忍耐力が必要かもしれませんね(笑)。鉛筆で書けば複数購入しなくても済むので、子どもの成長の時々で何度も『じぶんでつくる えがないえほん』を楽しんで欲しいと思います。

───B.J.ノヴァクさんとの貴重なエピソードなど、お聞かせいただきありがとうございました。

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