世界26か国の食べものを紹介した、楽しい大判絵本!
インタビュー
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2018.06.28
出版社からの内容紹介
今日は待ちに待ったお江戸の花火大会。早く夜にならないかと退屈していたぽんきちは、お母ちゃんに頼まれて、花火職人のお父ちゃんに夜食を届けに出かけました。すると、それを見た人たちが次々と後をついてゆき、町中が大騒ぎに! 江戸の町並みと夜空に咲く大輪の花火が夏の風情を感じさせる、たしろちさと初の和風絵本です。
───たしろさんといえば、「チュウチュウ通りのゆかいななかまたち」シリーズの挿絵に代表される、洋風の街並みの絵が印象的でした。『はなびのひ』は江戸が舞台と知り、「たしろさんが描く江戸の町はどんな風だろう?」とわくわくしました。どのページを見ても、活き活きとした江戸の下町風景が広がっていて、江戸の人の暮らしぶりがよくわかり、すごくおもしろかったです。江戸を舞台にしたお話を作ろうと思ったのは、なぜですか?
たしろ:よく「海外の絵本のような絵ですね」とおっしゃっていただくことが多いんですが、自分では外国風に描こうと思って描いていたわけではなく、自然とそういう絵になってしまったという感じだったんです。それで、少し違うテイストの絵に挑戦したいなという気持ちがありました。
───江戸の町のどんなところに、魅力を感じましたか?
───作品の中には、「髪結い屋」や「傘屋」などのお店や、江戸時代の学校だった「寺子屋」、「魚売り」や「飛脚」などの流しの商売人など、20種類以上の店や職人さんたちが描かれています。建物はもちろん、人々の暮らしぶりも細やかに描かれていますが、どんな風に調べたのですか?
たしろ:資料を集めたほかに、編集の藤本さんと一緒に、江戸東京博物館や両国花火資料館へ取材に行きました。
藤本:江戸東京博物館には、江戸の街並みを再現した大きなジオラマが展示されているんです。そのジオラマを見ているだけで、わくわくしましたね。
───学芸員さんの話で、印象に残ったものはなんでしたか?
藤本:私が、学芸員さんの話でおもしろいなと思ったのは、家の台所のつくりが簡素なことでした。理由を聞いたら、独身男性が多かった江戸では、家でご飯をつくる習慣があまりなくて、外食するのが一般的だったそうです。冷蔵庫がない時代なので、家で食材の保存ができなかったのが理由だと聞いて、納得しました。
たしろ:だから、町にはいつも食べ物の屋台が出ていたり、食事処が多かったりするんですよ。
───それで絵本の中にも、たくさん食べ物屋さんが描かれているんですね。
───街並みも細部まで描かれていますが、これは架空の街並みなんでしょうか?
藤本:資料にした本を見せてもらいましたが、付箋だらけでびっくりしました。
───それでは、ぽんきちが歩いた道筋は、古地図を見ながらアイデアを練って作り上げたのですか?
藤本:たぶん私もすべてのラフを拝見していないほど、本当にたくさん描いてくださって。どうリズムを出していくかなど、展開はかなり練っていただきました。
たしろ:本当に(笑)。最初は、大まかにページを割って流れで考えました。だんだん内容が固まっていくと、どういう道筋で隅田川まで行くのか、何回曲がるかなど、自分で体を左右に動かしながら思い描けるようになりました。
───地図から構図、そして絵本としての構成や流れなど、本当にたくさんのラフ画を描いていらっしゃっていますよね。実際に出来上がるまでに、どのぐらいの時間がかかったのですか?
───花火大会の会場である隅田川へ向かって、町を移動していく絵の流れと、「もうすぐ花火が上がる」という気持ちの盛り上がりがリンクしていて、読んでいる側の気持ちも盛り上がりました。
たしろ:読者の方に、ぽんきちの気持ちになって読んでもらいたい気持ちもあるけれど、ぽんきちが何かしながら歩いて行く様子を見る楽しさも味わって欲しいなとも思ったので、アングル違いの絵を何度も描きました。
───ぽんきちくんは、花火大会に行く途中で寄り道して遊んでいて、自分の後にできている大行列に気付いていない様子。そんな風に少しぼーっとした所があるけれど、とってもかわいらしいキャラクターです。主人公をタヌキにしようと思ったのはなぜですか?
たしろ:この作品のアイデアを考えたときに、「江戸」に続いて出てきたのが「タヌキ」だったんです。私の頭の中に最初に思い浮かんだ文章が、「ポポン ポン ポン。ここは大江戸 タヌキ横町」だったんです。できあがった『はなびのひ』とは全然違いますが、その一文のひらめきから、タヌキを主人公にしました。
───たしろさんの作品で、タヌキが登場するのは初めてですね。仕草もかわいらしくて、お母さんにおんぶされた小さな弟・妹たちもかわいいです。絵本には、タヌキ以外にもいろんな動物が登場しますが、登場させる動物の種類は、どんな風に決めたのでしょうか?
たしろ:日本にいる動物にしようと思って、鳥獣戯画にも描かれているウサギとカエル、サルを入れました。お武家さんはウマかイヌという風に、職業からなんとなくイメージして決めた動物もいます。ブタは、私が好きなので入れてみました。
藤本:寺子屋のお師匠さんは、どんな動物にするか迷いましたよね。
たしろ:そうですね。ハクトウワシという案もありましたが、最終的におじいちゃんっぽさが出るヤギにしました。
───どの動物も活き活きとした姿で描かれていて、仕草にも特徴がありますね。ネコは、粋な雰囲気で、歩き方も艶っぽさを感じます。
───細かい部分の表現も、こだわって描かれているんですね。一番苦労した絵はどれですか?
たしろ:やはり、この鳥瞰図ですね。メインの人が、ちゃんと順番に付いてきているかチェックしたときは、間違い探しをしているようでした(笑)。藤本さんに指摘されて、回向院の土俵脇にある酒樽も、最初3段で描いたんですが、前のページは4段だったので付け足して。
藤本:のぼりの旗も数が少なかったので足しましたね。でもそういう細かい所を見つけるのが、楽しみな絵本になったと思います。またこの絵は、列の先頭から離れた場所はぼかして描かれているんです。それでなんとなく、道筋にフォーカスが当たるように見えるのが、すごいなと思います。
───本当ですね! ページの隅々までたしろさんのこだわりが感じられます。
───『はなびのひ』は、これまでのたしろさんの作品と色合いがまったく違うので、新鮮な印象を受けました。題材に合わせて、和風の色合いを追求したのでしょうか?
たしろ:そうなんです。江戸時代には、素敵な名前の色がたくさんあるんですよ。和の色は、今までの自分のパレットにはない色ばかりだったので、挑戦してみたいなと思っていたんです。ちょうど使っていたアクリル絵の具に、「和バージョン」があるのを知って、その色を使いました。
───何か、色で苦労したことはありましたか?
───全体的に江戸時代の素朴な雰囲気が出ていてとても素敵です。一番の見所は、題名にもなっている花火のシーンですが、大きな花火が鮮やかで、迫力たっぷりですね。原画も美しいです!
たしろ:この花火だけは、史実をそのまま再現するのではなく、現代的な花火のイメージを加えています。江戸時代は、絵のように大きく開く花火はまだなくて、ススキの穂のように、下に向かって落ちる花火だったそうです。花火大会で打ち上げられるのも、20発ぐらいで終わりだったそうなんですね。
───そうだったんですね! 絵本を読んでも感じますが、花火大会の規模の大小というよりは、花火大会の日を楽しむこと自体が、江戸の人の楽しみだったんだろうなと思います。この花火ですが、原画を見ると、黒の下に青い色が塗ってありますね。
たしろ:はい。最初の花火が上がるのは、日が暮れきっていない時間帯だったので、そこから暗くなったことを表現するために、色を重ねています。
───本当に光っているように見える花火ですが、どんな風に描いたのですか?
たしろ:もう1回同じことはできないんですが(笑)、花火の周囲の地色は夜の青なんですが、花火の光の余韻がある所は逆で、黄色の地色の上に夜の闇を乗せているんです。パラパラと火が落ちている部分は、黒の上に絵の具をたっぷり置いて描きました。
───それでこんなに、鮮やかな黄色になっているんですね。夜空に浮かぶ花火の美しさだけでなく、迫力も感じられて、まるで音まで聞こえてきそうです。
たしろ:それは、藤本さんのアドバイスのおかげなんです。「大曲の花火」(秋田県大仙市で行われる、全国花火競技大会)の動画を送ってくださって、「もっと臨場感があって、どーんと音が聞こえるような感じにしてください」と言われて。
藤本:実は、私は秋田県大仙市の出身なので、小さい頃から花火が好きなんですね。実際に花火大会に行くと、音もすごいし振動もある。視界全体が花火になっているというのを、絵で出しませんかと提案しました。
たしろ:私のイメージでは、暗闇に光が乱れ打つみたいななんとなくのイメージだったので、振動まで考えていなくて。でも藤本さんのお話で、確かに音や振動も大事だなと思ったんです。
───音や振動という、絵には描けない要素を、実際にどうやって絵に落とし込んでいったのですか?
───花火そのものの見え方にも工夫がありますが、それを見ている人々の絵で、臨場感を出していったんですね。
藤本:花火の大きさだけを考えると、ここだけ絵本を縦長にして見せるという方法もあるかと思うのですが、そうすると、ぽんきちの家からずっと積み上げてきた流れが途切れてしまうんです。横長だと、どうしても切らなくてはいけない部分も出てくるんですが、そこはすごく苦心して頂いて。完成した絵は、納得の仕上がりで、すばらしいと思います。
───読むと花火が待ち遠しくなる1冊ですね。長い時間をかけてじっくり制作なさった過程など、いろいろなお話を聞くことができて、とても楽しかったです。ありがとうございました。最後に、絵本ナビ読者へのメッセージをお願いします。
たしろ:絵本を読んで、ぽんきちと一緒に花火を楽しんで頂けるとうれしいです。
───ありがとうございました!!