のりもの好きな子大集合!
インタビュー
<PR>
2021.11.11
10月18日に発売された話題の絵本『ちちんぷいぷい』は、50年ぶりに発見された堀内誠一さんの原画に、詩人・谷川俊太郎さんが文をつけた新作絵本です。連載第3回目は、堀内誠一さんの長女・花子さんと、次女・紅子さんに、原画を見つけたときの様子や絵本になるまで、そしてお父様の誠一さんの思い出などを語っていただきました。
みどころ
あれれ、おかしなかっこをしたきつねさんがいるよ。知らないな、こんなおじさん。ぼうしになにかかくれてる?
「ちちん ぷいぷい……ぱっ」
どんぐりがいっぱい出てきた! またハンカチをぱっと上げると、今度は柿。さらにさらに?
次々と目の前で起こる不思議に、動物たちの目が輝き、驚き、生き生きと画面を動きまわります。それはもう子どもたちの姿そのもの。見ているだけでも元気になれるような、明るいこの絵を描いているのは、堀内誠一さん。新たに発見されたという原画に、詩人の谷川俊太郎さんが文章を書き下ろし、今の子どもたちに届ける新刊として誕生したのが、この絵本なのです。
心地よい言葉のリズムに乗せられて、ページをめくりながら、思い思いに絵を読み解く楽しさを味わってくださいね。
この書籍を作った人
1932年東京生まれ。グラフィックデザイナー、絵本作家。主な絵本作品に『くろうまブランキー』『くるまはいくつ』『たろうのおでかけ』『ぐるんぱのようちえん』『こすずめのぼうけん』『ちのはなし』(以上福音館書店)、『おひさまがいっぱい』(童心社)、『かにこちゃん』「ことばとかずのえほん」シリーズ(くもん出版)、『マザー・グースのうた』(草思社)など多数。また著書に『父の時代 私の時代』(マガジンハウス)、編著書に『絵本の世界・110人のイラストレーター』など。1987年没。
この書籍を作った人
1931年、東京に生まれる。高校卒業後、詩人としてデビュー。1952年に第一詩集『二十億光年の孤独』(創元社)を刊行。以後、詩、絵本、翻訳など幅広く活躍。1975年日本翻訳文化賞、1988年野間児童文芸賞、1993年萩原朔太郎賞を受賞。ほか受賞多数。絵本作品に『ことばあそびうた』(福音館書店)、『マザー・グースのうた』(草思社)、『これはのみのぴこ』(サンリード刊)、『もこもこもこ』(文研出版)、「まり」(クレヨンハウス刊)、「わたし」(福音館書店)、「ことばとかずのえほん」シリーズ(くもん出版)他多数の作品がある。翻訳作品も多数。
───『ちちんぷいぷい』の原画は、2022年に開催予定の展覧会の準備中に見つけたそうですね。見つけたときのことを教えてください。
花子:父が亡くなる少し前の1985、86年頃から、各出版社から原画が続々と戻ってきました。それらを保管、管理しています。展覧会の準備にあたって、家族と図書館司書の方で出典を調べて整理していた中で、原画の1枚目に『ちちんぷいぷい ぱっ』とだけ書かれたイラスト一式が見つかりました。いろいろ調べましたが、残念ながら出典がわからなくて……。でも逆に、わからないからこそ復刊するのに良いかもしれないと思ったんです。
───そうだったんですね。
花子:『ちちんぷいぷい ぱっ』はイラストだけでしたが、絵を見るだけでストーリーがわかる。だからテキストもつけやすいだろうなと思ったのも、ひとつの理由です。原画を整理していると、父がその絵を描いていた当時のことが思い出されて懐かしい気持ちになるんですが、『ちちんぷいぷい ぱっ』は、見た覚えがなくて。
紅子:父は仕事がとても早く、私たちが寝てから一晩でパパッと描き上げるものもあったので、これもそんな風に描かれたものかもしれません。
───イラストを見て、いつ頃描かれたということはわかったのでしょうか?
花子:父は作品ごとに絵柄がまったく違うので、イラストから推測することは難しいんです。でも『ちちんぷいぷい ぱっ』はフランスに行く前、おそらく1970から72年の間に描かれたものだと思いました。
───原画に残されていた「ちちんぷいぷい ぱっ」という言葉ですが、お二人が小さい頃にお父さまから言われたことがあったり、家族の中で使っていたりした言葉でしたか?
花子:私たちは馴染みがある言葉ですし、小さい子をあやすときに自分たちも使っていたと思うんです。でも父は、そういう言葉は一切口にしなかったですね。
紅子:そういう風に子どもをあやして、遊んでくれるような父ではなかったんです。でも「ちちんぷいぷい いたいの いたいの 飛んでいけ」という言葉は、私たちが小さいころは普通に使っていたんじゃないのかな? でも、私自身は子育て中に「いたいの いたいの 飛んでいけ」と言っていたのは覚えているんですが、「ちちんぷいぷい」とつけていたかなと思って子どもに聞いてみたら、「つけていなかったと思う」と言われました。
───絵本ナビスタッフにも話を聞いたところ、親がかろうじて知っている程度で、家庭内はもちろん、保育園や幼稚園でも耳にしない言葉になっているそうです。
花子:逆に、聞いたことがないから新鮮な言葉の響きで、子どもたちがおもしろがってくれたらいいですね。
紅子:本当に。小さい子に読んであげて、反応を見てみたいですね。
───見つかった原画を新たに絵本にするにあたり、紅子さんがいろいろ手を加えたそうですね。具体的にどんなことをしたのでしょうか?
紅子:実は、見つかった原画は全部で7枚でした。きつねが帽子に布をかぶせて「ちちんぷいぷい」と言っているだろう場面は最初だけで、後は「ぱっ」と帽子の中からなにかが出てくるイラストが連続しているだけだったんです。
花子:それを「ちちんぷいぷい」と「ぱっ」の繰り返しにすればページが増えるし、1冊の絵本らしいつくりになるよねという話になりました。
紅子:姉から「紅子が描く?」と言われたときは、「そんなことをしてもいいの?」とびっくりしました。でも原画を見たら、色も線もくっきりしていたので、これならいけると思いました。でも実際にしたのは、印刷所にスキャンしてもらった原画のデータの、切り貼りのようなことです。細部に少し変更を加えて、おはなしの流れに沿った配置にしました。
───原画では、きつねとほかの動物達の位置が左右が逆だったんですね!
紅子:実は2020年の緊急事態宣言が出てから、家に長くいるようになり、ペンタブレットを使ってパソコンで絵を描くようになったんです。最初は別の仕事で使っていたのですが、LINEスタンプ「堀内誠一イラストスタンプ」シリーズを作り始めて。絵本をカメラで撮影して、それをきれいにレタッチしてスタンプを作ったのですが、これがすごく楽しかったんですよね。
紅子:初めて父の絵を細部までちゃんと見たというか、データでいじりながら「こんな風に描いていたんだ」、「ここはこんな風になっているんだ」と新たな発見があって。その流れがあったので、『ちちんぷいぷい』では悩まず、「ぱっ」と場面を足しちゃいました。
───ページをめくるたびに、きつねの目が怪しさを増すのも楽しいです。
紅子:きつねが手品をしかける絵は1点しかないので、私が表情にアレンジを加えました。完全に同じ絵だと、おもしろみがないかなと思って。姉や編集担当の紀本さんからもNGがなかったので、そのままいかせてもらいました。
───花子さんは、紅子さんがアレンジを加えた絵を見ていかがでしたか?
花子:うまいものだなと思いました。ダメ出しをすると、たいていそれは父が描いた絵のほうだったりして(笑)。そうやって加工する過程で、紅子の言う通り、父の絵のかなり細かいところまで見て発見することができました。
───原画はどんな画材を使用して描かれていましたか?
花子:『ちちんぷいぷい』はマジックと、水彩もちょっと使っているようです。
紅子:印刷した絵本は少し落ち着いた色味になっていますが、原画は蛍光色を使っています。本当に「ぱっ」となにかが飛び出してきそうなくらい、ピカピカしているんですよ。
花子:父はずっと蛍光色が好きで『たろうのおでかけ』(作:村山桂子、絵:堀内誠一、福音館書店、1966年刊行)の頃から使い続けていました。蛍光色は印刷では再現できないとわかっていても、わざと使っているところがあるんです。
出版社からの内容紹介
たろうは、なかよしのまみちゃんの誕生日に、すみれの花とアイスクリームをもって、動物たちといっしょに出かけました。みんなはうれしくって、とっとこかけだしますが、町の中ではおじさんたちに「けがをするから、だめ! 」といわれて、なかなか先を急げません。でも、原っぱにきたら、もう思いっきり……。交通ルールを教えながらも、元気いっぱいの絵本です。
───おふたりが協力して作った、文字のない状態の絵本ができあがってから、谷川さんに文の執筆をお願いすると、わずか3日であとがきまで書いてくれたそうですね。谷川さんのテキストがついた絵本を見て、いかがでしたか?
花子:文章がなくても、見ればストーリーがわかるようなイラストだったんですが、やはり文字があった方がよいと思い、谷川さんにご依頼しようという話になりました。
紅子:「しらないよ こんなおじさん」という1行目をみた瞬間、心をつかまれました。しらない人に対する反応がまさに子どもだし、一気におはなしに引きこまれます。思い切ってお願いして良かったなと思いました。
───お父さまである堀内誠一さんが50年前に描いたイラストが今、新刊絵本として発売されることに対して、どんな思いがありますか?
紅子:私個人としては、「堀内誠一の復活」というよりも、単純に「新しい絵本」として受け止めてもらいたいなと思います。『ちちんぷいぷい』は言葉が少ない分、絵の中にいろんなヒントが隠されているので、ぜひお子さんと会話しながら、親子の遊びのツールとして読んでもらえたらうれしいです。
花子:原画がきれいな状態で残っていたのも、本当によかったです。
───お父さまの絵本の中で、それぞれお好きな1冊を教えてください。
花子:なかなか選べないんですが、強いていえば『てがみのえほん』(作・絵:堀内誠一、福音館書店、2004年刊行)です。「こどものとも」200号を記念して、1972年に描かれました。
いろんな人から届いた「こどものとも」200号をお祝いする手紙を紹介するという構成なのですが、実際に父が描いている絵を見せてくれて説明してくれた思い出があるのと、やっぱりソツなくああいうものが描ける人は、なかなか珍しくて。編集者であり、雑誌のデザイン、アートディレクションをやっていたという、父の真骨頂が出ている気がして。父らしくておもしろい本だという意味で好きです。
紅子:私は『おそうじをおぼえたらがないリスのゲルランゲ』が好きだったな。あの絵本を描くために、2回リスを飼ったんですよ。最初に飼い始めたシマリスはすぐに死んでしまったのですが、その次に飼ったリスは長生きしてくれました。飼った当時の思い出もあって、ゲルランゲが本当にかわいくて。
花子:かわいいよね。
出版社からの内容紹介
おそうじぎらいがもとで家を追い出されたリスはオオカミに食べられそうになったときにも「おそうじだけはおぼえたくありません!」といいます。ユーモアあふれるフランスの幼年童話。
出版社からの内容紹介
結婚がいやで、さんざん抵抗を続けるリスの前に、利口でかわいい女の子リスが現れます。
『おそうじをおぼえたがらないリスのゲルランゲ』同様、機知とユーモアにあふれた物語。
紅子:あともう1冊、リトアニア民話の『パンのかけらとちいさなあくま』が、うちの子ども2人が大好きで。読むたびに盛り上がる一番人気の絵本だったので、すごく愛着があります。
出版社からの内容紹介
貧乏なきこりのパンを取った小さな悪魔は、そのお詫びに沼を麦畑にかえた。すると地主が実った麦を持っていってしまった。小さな悪魔は大きな知恵を働かせ、みごと麦畑を取り戻す。
───最後に、絵本ナビ読者にメッセージをお願いします。
紅子:『ちちんぷいぷい』は、父らしいすごく明るくて元気な絵本です。古くからあるけれども、今聞くと新鮮に聞こえる「ちちんぷいぷい ぱっ」の音と一緒に、お子さんと楽しんでいただけたらうれしいです。
花子:原画を整理しながら、「これは印刷で残しておきたいな」という作品がたくさん出てきました。その中のひとつが新刊絵本という形になったのも、絵本を読んでくださる方々がいらっしゃるおかげです。だから本当にうれしいですし、新しい絵本として純粋に楽しんでいただけたらと思います。
───ありがとうございました。
「ちちんぷいぷい」は江戸時代のおまじない?
「ちちんぷいぷい いたいの いたいの 飛んでいけ」というおまじないは、江戸幕府三代将軍・徳川家光の乳母、春日局が家光に対して「知人武勇は御代(ムミョウ)の御宝」と言ったことが始まりだそう。意味は「あなたは、武士としての賢さや人徳、力を兼ね備えている(徳川家の)宝なのですから、泣くのでありませんよ」です。(参照:note蜂寅企画 中尾のお江戸の話『ちちんぷいぷいって何? お江戸の効果抜群おまじない』の話より)
その冒頭の言葉「知仁武勇」が、「チジン ブユウ ブユウ」になり、「ちちんぷゆう」→「ちちんぷいぷい」とだんだん変化庶民にも伝わり、小さな子が怪我をして痛いところを、なでさすってなだめるおまじないとして定着していったという説があるようです。
「ちちんぷいぷい」とインターネットで検索すると一番に出てくるのは、関西の毎日放送のお昼のエンターテイメント番組。10代の若者は、YouTubeなどで動画を公開している有名なボカロプロデューサーflowerさんの曲「チチンプイプイ」の方が身近かもしれません。
撮影協力:堀内花子、堀内紅子
取材協力:紀本直美
取材・文:中村美奈子(絵本ナビ)
刊行後まもなく『ちちんぷいぷい』の原本が判明!
このインタビューを行った後、堀内花子さんと紅子さんから吉報が届きました。絵本『ちちんぷいぷい』の原本である「ちちんぷいぷいぱっ」(作:仲倉眉子、絵:堀内誠一)は、「よいこのくに」(学習研究社、1978年刊行)に掲載されている作品だったとのことです。
展覧会「堀内誠一絵の世界」開催決定!