●主人公はペコルちゃん。
─── この2作品の主役はもちろんペコルちゃん。ペコルちゃんはどんな子なのでしょう。キャラクター設定みたいな事はされるのでしょうか?
好奇心旺盛でちょっといたずらもする子ども、それを大人が大きな目で見守って一緒にふざけちゃおうというイメージが最初にあって。そういった所から、この子の見た目を色々考えて、いくつかキャラクターを描いたんです。どちらの方がよりイメージに合っているか、他の方の客観的な意見も聞きながら決定しました。男の子にも女の子にも見えて、ちょっといたずらっ子っぽい感じで、髪型は毛先がくりんとはねていて・・・。それがペコルちゃんです。
─── ペコルちゃんって、名前もすごくかわいいですよね。
これはね。例えば「カズオ君」とかにしちゃうと日本人、日本という国限定になっちゃう。「○○子ちゃん」だと女の子になっちゃう。あだ名なのか本名なのかわからないような、ちょっと不思議な名前ってないかな・・・と考えてるちょうどその時期に、テレビのニュースから「ペトコパーク」っていう言葉が1週間ぐらいずっと聞こえてきたんですよ。アメリカのメジャーリーグチームの野球場なんですけどね。「ペトコ」ってかわいいなと思ったんです。だから最初は「ペトコちゃん」にしようと。でも「コ」がつくと女の子っぽいね、というので「コペルニクス」のひっくり返しみたいなことで「ペコル」。
子どもは大人が見ない見方というのをする、いろいろな発想をひっくり返したことをやっちゃうというという部分がコペルニクス(地動説を唱えた人)にも通ずるかなと思って。見方を変えると全然違う風になるのにな、というところを引っかけているというのもあるんですね。
─── これはさこさんの全作品に共通する事でもあるんですけど、子どものちょっとした仕草やポーズがとても可愛いのです。例えば『おでかけスイッチ』の最後「もういっかいやって」のポーズだとか、『たべものでんしゃ』の袋に入っている時のペコルちゃんの得意気な表情だとか。「そうそう、この格好、この表情、うちの子もやるやる!うちの子にそっくり!」と思ってしまうんですよね。
「もういっかいやって」のこのポーズ、やりますよね。くすぐられるから腰は引けているんだけど、でもやりたい!っていうね(笑)。どの作品の時も、「うちの子に似てるんです」というのはよく言われます。男の子も、女の子も。だからどっちにも見えるというのは多いですね。中にはコスプレの写真を送ってくださる方もいるんですよ。「ゆっくとすっく」のゆっくみたいに赤いバンダナした写真を送ってくださって。やっぱり親近感を持ってくださるというのは嬉しいですよね。
●原画を見せていただきました!
─── この日はなんと、「ペコルちゃん」シリーズの貴重な原画も見せてくださいました!
絵本の中の色々な場面の原画が次から次へと出てきます。
やはり原画は色が美しい!魅入ってしまいます。
この画像では読めませんが、ボタンの下の「お降りの方はこのボタンを・・・」の説明も細かく書き込まれています。
ペコルちゃんの「もういっかいやって」のポーズがたまりません!右は「おでかけスイッチ」の扉の絵。ここに題名が入ります。
上の扉の絵を近くで見ると、窓から顔が覗いています。更に近づくと・・・お出かけ前のペコルちゃん一家だ!
「卓上ルーペを使って描いています。私もう、お米に南無阿弥陀仏かけるかもと思うんですけどね(笑)。」とさこさん。
実物は本当にぎゅーっと小さいのです。目の位置は裸眼じゃ描けないとのこと。
●絵本作家さこももみさんについてお伺いしました!
─── さこももみさんご自身についてもお伺いさせていただきます。絵本作家になられたきっかけというのを教えていただけますか?プロフィールを拝見して、教師をされていたという部分にやはり目がいってしまうのですが。
教師をしていたのは、2年だけなんです。小学校の図工の先生を2年間していました。
小さい時からずっと絵を描くのは好きだったんです。だけどそれを職業にするというのは、1回も考えたことがなくて。大学受験の時に、小学校の先生になりたいと他の科目を受けようとしたんですけど、友達から「なんで美術で受けないの?」と言われ、「あ、そうか」と。それがきっかけで試験に向けて絵ばっかり描いているうちに、こんなに面白いんだ!と思うようになったんです。大学に入ってからも、先生じゃなくて絵の方に気持ちが向いたりもして。でも、昔は今みたいに職業がいくつもあって選ぶという感じではなくて、とにかく大学を出たら生きていかなきゃというのがありましたし、もちろん子どもは好きだったので、教育実習などしているうちに美術、図工の先生だったらいいなと思ったんです。小学校の時の図工の先生が大好きだったというのもありましたね。
─── その後、ご結婚を期に教師を辞められて、広島に行かれたそうですね。
普通の主婦になったんです。もう引退した感じで。でも本当に絵を描いたり作ったりが好きなので、子どもにパズルなどを作って、それを普通に楽しんでいたんですよ。そうしたら大学の同級生で出版社の編集部に勤めていたお友達が、たまたま広島に出張で来た時にうちに泊まって。パズルを写真に撮って帰って。それがきっかけで、イラストカットの仕事をするようになったんですね。
絵本を描くというのは、自分では話を作る力もないですし、絵もまだまだだですし、一生やっていくうちに1冊ぐらい話がくれば嬉しいなあ、ぐらいに思っていたんです。そうしたら、くもん出版さんのドリルの表紙の絵を描いた時に、「かわいいな」と思ってくださった編集の方がいて。ドリルの表紙なんかを見ながら、まだ絵本を描いてない人に頼みたいと思っていたらしいですね。その表紙を見て、名前を見て、インターネットで検索したらHPが出て来たので、ということで突然お電話がかかってきて「(絵本は)描いたことありますか?」と言われて「ないです」、「描きませんか?」「描きます」って。
出来上がったのが人気シリーズ「こんなときってなんていう?」
実際に経験するシーンを集め、その時何と言ったらいいかを考え覚える赤ちゃん認識絵本。
─── まるで絵本界のシンデレラストーリーのようですね!
そうなんです。これが5年ぐらい前だったと思うんですけど。絵本ってどうやるんだろう、っていう状態で始まって。最初の打ち合わせの時にこんな内容ですということで文章をいただいて、自分なりに描いたものを見せて、何回か直しをしながら詰めていったという感じでしたね。
─── 「こんなときってなんていう?」のシリーズは、発売当初から話題になっていましたね。その後も続編が出るほど人気が出て。こんなに大反響となったのは驚きだったのでは?
最初だったので、そういうものだと思ったんですよ(笑)。「かわいい」と言ってくださるけれども、どうも自分はあまのじゃくのせいか、「本当にそう思ってるのかな」という思いもあったりして。でも評判も良くて、「うちの子に似てる」とか色々感想として書いてくださる方が増えて。
絵本の仕事が初めてだったので、なんだか毎日勉強という感じで。絵本が面白いかどうかっていうのは、客観的には全然わからなかったですね。ラフを描いて出して、「こういう風にした方がいい」と返ってくると、「ああ、なるほどな」といちいち感心して。「ああ、そうかそうか」と思いながら描いていました。でも最初のラフは全く自由に描かせていただいたので、それを面白いと言ってくださったのが自信になって、「頑張ろう!」と思えたというのはありました。これだけの分量をお話に添って好きに描かせてもらうというのは初めてでしたし。絵本は、どこかで出来たらいいなと思っていた仕事だったので。
─── それまでも、読み手として絵本に触れてこられたご経験は?
私も親に絵本を読んでもらって育ちましたし、子ども達にも幼稚園から低学年ぐらいまでは読み聞かせもしていました。ただ、これを描いた時にはもう子どもたちは大きかったので、ちょっと読まない時期があって。ブランクがあって。「その絵本は読んでなかったよね」というので図書館に通ったりしながら制作していました。
─── その後、創作絵本の方も手掛けられるようになられたんですよね。文章の方というのも「やってみませんか」と依頼されて?
文章も、と言ってくださったのは、この作品が最初なんです。
メールのやりとりの文章やブログを見ていると、書ける人だからと言ってくださって。口頭でこんなお話で行っていいですかと、編集者さんと話した時に、「双子のきょうだいがおつかいを頼まれるんだけど、寄り道をする話」と言ったんですね。そうしたら、そういう風に短く言えるお話ならたぶん大丈夫です。パパパっと言えると、たぶんうまくいきますよって言ってくださって。励ましてくださったんでしょうけど。それで、書いてみたんです。この原稿はほぼ直しはなかったんですよね。『サンタさん〜』のほうも含めて、わりとすんなりいったんです。