ポルトガルの漁村で育った元気なハリネズミの男の子チコ。妹のチカとのんびり暮らしていましたが、友だちのノウサギ、アララがニンゲンにつかまったと聞き、アララを助けるため外の世界に飛び出します。ふもとの村の市場で、赤いリュックの男がアララを買ったという情報を知り、その男を追ううちにたどり着いたのは大都会のリスボン。そこで旅ネズミマルコ・ポーロと出会い、一緒に、かつてからあこがれていた豪華客船ジャカスカ号に乗り込むことに。たった一日のうちに慣れ親しんだ住まいからはるか遠くへ来てしまったチコ。チコはこれからどこへ向かうのでしょう?友だちのアララを助けることはできるのでしょうか?
ハリネズミという体の小さいチコの前に広がった世界は大きくて、見るもの全てがたくさんの驚きにあふれています。2本の柱だと思ったのはニンゲンの足だったり、すさまじい光とともに空気が破裂したように思ったのは、スピード写真の箱だったり、青いエレベーターだと思ったものはバケツだったり!ハリネズミのチコの目線になって、世界の大きさと豊かさが体感でき、最初から最後まで、ドキドキの連続です。
チコはじめ、妹のハリネズミ・チカ、飛行グモのカゼマカセ、カラスのモノイイ、コウノトリのカタカタさんとコウウン坊やなど登場するなかまも、ユニークで楽しさいっぱい。高畠那生さんが描くなかまの姿は愛嬌たっぷりでとってもかわいらしく、たちまちファンになってしまいます。そのなかまのうち、チコにとって一番の大きな出会いは、旅ネズミマルコとの出会いでしょう。首にみどりのバンダナをまき、肩からななめに黒い小さなポシェットまでぶらさげたマルコは、おしゃれでカッコ良くて頼もしいのです。豪華客船を別荘にしているというマルコに、ニンゲンの目を盗んで過ごす快適な船旅のコツを教えてもらいながら、チコの冒険の旅がはじまっていきます。
作者は、童話作家であり翻訳家でもある山下明生さん。山下さんは、1970年から多くの幼年童話、長編作品、絵本の翻訳作品を生み出されていて、子どもの頃に読んでいたという大人のファンの方も多いのではないでしょうか。『はんぶんちょうだい』『まつげの海のひこうせん』『島ひきおに』『かいぞくオネション』など数えきれないほどの作品と、翻訳作品としては「おばけのバーバパパ」や「カロリーヌ」シリーズが有名です。海を愛し、常に海に関わりのある作品を書いてきたという山下明生さん。その山下さんが、構想から25年をかけて練り上げたのが、こちらのシリーズ。期待を超える楽しさが詰まっています。シリーズは全4巻。このままジャカスカ号で地中海を渡ったり、空飛ぶ船でアドリア海へ、小さな船でフランス運河へ、と、チコの旅はまだまだ続きます。チコと同じように様々な可能性にあふれている子どもたちへ。1人で読むなら小学3年生ぐらいからおすすめです。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
ポルトガル生まれの小さなハリネズミが、ニンゲンにつかまった子ウサギを追いかけ豪華客船に。ニンゲンの目を盗んで過ごす快適な船旅のコツを先輩クマネズミに教わりますが、海が荒れ出して……。ゆかいな友情冒険活劇シリーズ1巻目。
●編集者コメント 世界の海を旅して来た童話作家による、幼年文学の集大成。「飛ぶ教室第1期」に連載された未完作品を大幅に改稿し、続編を加え、全4巻になります。
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