ひゅうぅぅー、こんこん。ひゅるるぅぅー、とんとん。 ある よるの こと、シバの みみに ちいさな うたが、きこえてきました。 あれは、かぜ? あれは なみ? おれ、いきたい!
オレンジ色のゴーグルを頭にのせた少年シバは、家を出て、知らない道を歩いていきます。 すると闇の中から突然聞こえてきた不気味な声。声の主がシバに息を吹きかけると、 「な、ん、で、や ねぇぇぇぇーーーんっ!!」 シバは、黒い小さなシカになってしまったのでした。オレンジのめがねを頭にのせたシカ。口を開くと「ぴーっ」としか鳴けなくなっています。 見上げると、頭の上には、はじまりも終わりもない丸い虹がかかり、虹に見とれたシバは、地面にパックリ開いた落とし穴に、すとんっ、ずーっ、ずずずずずーっ 「ぴぃぃぃーーーーーーっ!!」
息つく間もない展開。鮮やかな色の洪水。圧倒されているうちに、いつのまにか、この不条理でアーティスティックな世界に入りこんでしまっています。この味わったことのない感覚はなんでしょう。 シカになったシバは、「ひゅうぅぅー、こんこん」という歌に導かれるまま、動物や神様、いろいろな不思議な出会いを重ねます。ひとつずつ身に着けているものを、出会った者たちに与えていくシバ。シバはいったいどこへ行きつくのでしょうか。そして、不思議な歌の正体は・・・? 文は藤原理加さん、印象的な絵は現代アート作家の中山玲佳さん。ともに20代に中南米で過ごした経験があり、二人の出会いもラテンアメリカなんだそうです。「ふたりだからできる”おはなし・絵本”」ということで創作された絵本。ラテンアメリカ文化に造詣が深いお二人ならではの、土着の文化を感じさせる空気があります。
まぶしい太陽と濃い闇。あふれるエネルギーの海に身をゆだねて、この大らかで不思議な世界を感じるままに楽しんでみてください。
(掛川晶子 絵本ナビ編集部)
シバの耳にきこえてきた、ふしぎなうた。あれは、かぜ? それとも、なみ? おれ、いきたい!シバは、ひとりあるきだしました。
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