サイって……みなさんはどんな動物だと思いますか? こわい? やさしい? おとなしい?
もしサイを遠くへ運ぶとしたら、何が必要でしょうか。 乗り物にどうやってのせたらいい? 何を食べさせたらいい? あばれたりしない? わからないことだらけで、ドキドキしてしまいますよね。
本書は今から300年も昔、まだサイを見た人がほとんどいない時代に、遠いインドから、ヨーロッパまでサイを運んだ男の人のおはなしです。 サイの名前は、クララ。 クララは、はじめてヨーロッパを旅したサイになりました。
男の人は、オランダ出身のヴァン・デル・メール船長。インドの友人宅ではじめてサイを見て、ヨーロッパに連れ帰ることを思いつきます。船長は、クララの世話をちゃんとすることを誓い、友人から譲り受けました。 船長に連れられて船にのったクララは、みんなの人気者になります。 そして無事オランダに着きますが、もりもり食べてどんどん大きくなるクララをどうしたらいいのか。 クララと旅することでお金を稼ぎ、クララに食べさせるための干し草をたっぷり買おうと決めた船長ですが、まずは船大工に荷車を特注して、8頭の馬にひかせて……。 クララを運ぶのもたいへんです!
さあ、“まぼろしのけもの”を連れた旅がはじまりました。 「貝がらのようなかたい皮ふに、ロバのような耳。アヒルのようにおよぎ、ハトのようにおとなしい。おまけにビールが大好物!」 今でこそ、野生動物をとじこめたり、自由を奪うことは間違ったことだとされています。しかし300年前の人々にはそのような考えはなく、王様から農民まで、ヨーロッパの人はみんなはじめて見る動物に夢中になりました。 絵のモデルになったり歌がつくられたり、《サイ風》ヘアスタイルに《サイ風》ドレスも大はやり!? プロイセンのフリードリヒ大王、ウィーンの女帝マリア・テレジアといった高貴な方々にお目通りもかない、船長はせいいっぱいクララの世話をしながら旅をつづけますが……?
300年近く前に本当にあったこの話に心をうばわれたエミリ・アーノルド・マッカリーが描いた絵本。 『ラスコーの洞窟』(小峰書店)などを描いている、コールデコット賞受賞作家です。 おだやかで品のある目をしたクララ、そして300年前の風俗や生活を伝えるダイナミックな画面は大型絵本ならではの見どころです。 個人的にはライン川くだりのいかだに乗ったクララの絵が見どころ! 実際に見た人たちはどんなにびっくりしたことでしょう。
見返しには「クララの旅の道すじ」と題した地図が描かれています。 インドのカルカッタからオランダのロッテルダムまで。 そして陸路、当時の神聖ローマ帝国やフランスのあちこちを、気の遠くなるような距離、たくさんの町を経由して、クララは旅をしたのですね。
クララ、300年前に旅したサイ。 サイを見る目がすこしかわりそうです。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
今からおよそ300年前、まだサイがまぼろしの動物だと思われていた時代に、 インドからオランダへサイを連れてきた男がいました。彼の名前はヴァン・デル・メール。 人々に本物のサイを見せようと、サイのクララを連れてヨーロッパ中を旅します。 こんな重い動物をどうやって運んだらいいのか、水はどれくらい必要なのか、エサを買うお金は? 何があってもクララの世話をすると決めたヴァン・デル・メールとクララの間には、いつしか深い絆が生まれ……。 実話をもとに描かれた感動の一冊です。
驚くことがたくさんあった絵本でした。300年前?、重さ3トンのサイがヨーロッパをぐるりと旅する??そして歴史上の王様や女帝が登場します。本当にあったお話だそうです。
クララ(サイ)を連れて旅したヴァン・デル・メール船長の思いつきと行動力には目をみはるものがものがありました。なにしろ17年もの旅なのですから。そんな長旅、そして見世物になることはクララにとって迷惑なことだったのでしょうか?そういう面もあったかもしれません。でも、この絵本を読む限りでは、船長とクララの間には確かに、愛情と信頼関係があると感じられました。クララは人間が好きだったんじゃないかな?そしてその人間への信頼感は、日々、クララを大切にお世話する船長のみならず、最初、クララがみなしごになった時に引き取って大事に育てたインドのヤンさんのおかげでもあると思いました。
300年前のヨーロッパの人々が珍しいサイを見て驚き、心を浮き立たせている街のざわめきを感じました。クララは本当に人気者だったんですね。 (なみ@えほんさん 50代・その他の方 )
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