灰屋灰次郎は「灰屋」を営んでいる、ちょっと大きな顔の、やさしいおじさん。 灰次郎の商売が繁盛しているところを見た元弟子の銀五郎は、灰次郎の財産を奪う計画を練りはじめて…。江戸の裏長屋を舞台に、様々な人の姿を落語調に描く、人情絵本。
落語を聴いていると時々これは文化だなと感じることがある。
話芸といわれる世界でありながら、目の前に江戸や明治の庶民の暮らしが広がるようである。
それを同じことが飯野和好さんのこの作品にもいえる。
江戸の通りに響く物売り買いの声。
この物語の主人公の灰次郎の商売である灰買いの声、「灰はございー」だけではない。
めだかに金魚売り、塩売りの声がいきかう。
落語でいえばマクラにあたる。
けれど、ここをしっかりしないと江戸の時代にはいっていけない。
さらに灰次郎が小さい坊やに連れていかれる裏長屋。
どぶ板が狭い路地を走り、隣近所はうすい壁。
この雰囲気もしっかり描かないと、世界にはいっていけない。
しかも、この裏長屋は物語の後半には重要な舞台となるのだから。
ところでこの灰次郎という男の商売は家々から灰を買ってそれをふるいにかけて、布を染めたり和紙をつくったりする時に使われたという。
それでなかなかいい商売にもなって、灰次郎は結構いい屋敷で暮らしている。
もっともそれも灰次郎がまじめに商いをしているからで、これを妬む男が出て来る。
しかも、それがもとの弟子というのだから。
ところがこの悪人、やっぱりどこか抜けていて、悪だくみも裏長屋の薄い壁でまる聞こえ。
灰次郎は寸前のところで難を逃れることができ、と、まるで落語の世界のよう。
まさに飯野和好さんの話芸ならぬ絵芸の名人芸、「人情えほん」とつくだけあって、ほろりとさせられる。 (夏の雨さん 60代・パパ )
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