オランダの作家トンケ・ドラフトによる、地下世界と地上を行ったり来たりする少年たちの、友情と魔法の物語。
10歳の少年ヨーストは両親がいなくて祖母と暮らしています。以前は楽しかった学校も、最近ではクラスメイトにからかわれ、いじめられています。 ヨーストのおばあちゃんは魔女と噂されていますが、たしかにちょっと奇妙なことを言うことがあるのです。ある夜、ヨーストの家に誰か来たような気配がしましたが、おばあちゃんは外をのぞきに行った後、誰も来ていないと言い、すぐに(その後の物語の中でヨーストの身を守ることになる)銀色がかった灰色の毛糸のセーターを編みだします。 一方、翌日学校でヨーストは、「どこから来たの? マホッフ、マホッフ、 マホッヘルチェ」という古い遊び歌で遊んでいる子どもたちの輪に参加したとき、突然地面から泥や砂にまみれた男があらわれ「地面の下からやってきた マホッヘルチェ!」と恐ろしげにはっきり言うのを見ます。恐怖で固まる子どもたちの中、ひとり勇気を出して「ぼくに何をもってきてくれた?」と歌にこたえたヨーストは、歌い交わした約束通り、きらめく青い月の石を手に入れるために、男の足あとを追うことになります。 実はこの男は地下世界の王、マホッヘルチェ! 人間を憎む冷たい地下の王と、約束を交わしてしまったヨーストは、困難を切り抜けられるのでしょうか。
物語のはじまりではヨーストをいじめていたヤンですが、ヨーストに引き寄せられるように、一緒に足あとを追う旅に出ます。そこへ、同じく地下の王との約束のために自由を奪われたイアン王子が馬でやってきて、ヨーストたちと出会います……。 池の中に飛び込んで地下世界にやってきたイアン王子とヨースト。一方、いい魔法使いオルムの助けを得ながら、ヤンは、池のほとりで王子の馬とともに待っています。地下の王の末娘、ヒヤシンタ姫の手助けをこっそり受けながら、地下の王に立ち向かう、それぞれの少年たちの行方はどうなるのか……。マホッヘルチェとは何ものなのか。青い月の石はどんな力があるのか? 不思議なことが何もわからないままに、地下の冒険はすすんでいきますが……。
トンケ・ドラフトは代表作『王への手紙』が、オランダの児童書における過去50年で一番の子どもの本に選ばれた(2004年秋)国民的作家です。2014年には同作品がついにイギリスで英訳出版され、大評判になります。 オランダ屈指のストーリーテラーとしての魅力は本書においてもいかんなく発揮され、読者はなぞめいた空気のままにいつのまにか物語の中にひきずりこまれて右往左往するような感覚を味わえます。 もともと小学校向けの読書教材として1968年から80年にかけて発表されたシリーズ「青い月」という全八話、長い物語の一部からうまれたのがこのおはなし。正確には、六・七・八話が一緒になって『青い月の石』になったそうです。
戦前にオランダの植民地だったインドネシアで生まれ、戦中は日本軍の収容所で少女時代の一時期を過ごしたトンケ・ドラフト。空想する楽しみはそこで知ったそうですが、騎士や盾持ちといった人物がヨーロッパ風でありながらも、どことなくいろんな国の民話がまざったようなエキゾチックな雰囲気が感じられます。 後半は、美しいヒヤシンタ姫とイアン王子のお伽話のような愛の物語と、ヨーストにはじめから唯一やさしかった近所の女の子フリーチェ、ヨーストとヤンの3人の互いに信頼し合う友情の物語がからみあいながら進み、すべての解決のカギとなっていきます。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
ヨーストはある暗い夜,家の外にあやしい黒い影を目にする.そして次の日,校庭の地面の下からぶきみな男が現れた.その名は地下世界の王,マホッヘルチェ! ヨーストは足あとを追っていくが…….それは月が青くなったときに始まった,少年と仲間のとくべつな冒険の物語.現実とおとぎ話が入り交じる,人気作家のファンタジー.
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