キコキコキコキコ。
その子は背中を丸め、全身で三輪車をこぎ、目の前の道を進む。下を向き、キュルキュル音をさせ、懸命にペダルを踏むその子を包み込むのは、森の木々や池の水やそこに咲く花々。激しく流れる川の水であり、大きく広がる空と雲であり。浮かびあがるのは、いつでも一緒だった大好きなあの顔。
きょう、キャンディがしんだ。
かなしみを内に秘め、上を向くこともできないけれど。忘れないかぎり、いつでもここにいる。一緒に生きていくことができる。いつしか景色にも色が差し、青空に浮かぶ雲にも……。
自然の中に生きるものたちへの愛情を、たっぷり絵本の中に注ぎ続ける近藤薫美子さん。この作品で描いているのは、愛する者の死を乗り越える「心のぼうけん」の物語。ほとんど言葉はないけれど、迫力の背景を見ているだけでその心情が伝わってきます。捉え方は読む人それぞれ、けれど不思議と力がみなぎってくるのを感じます。
絵にかくされた「ひみつ」が見えてくるまで、何度もゆっくりと読み返してみてくださいね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
近藤薫美子さんの描く絵は「自然の中の生」への愛情がたっぷり。既刊『せかいかえるかいぎ』では、世界中のかえるたちがにぎやかに暮らす豊かな自然を楽しく描いています。本作は、愛する者の死をのりこえる心の冒険を情感豊かに描いた絵本。ひとつのいのちが終わっても、忘れずにいれば、共に生きる明日がそこにある。そして、豊かな自然はのこされて生きるものをやさしく包み、生きる力を与えてくれる。子どもたちにとっても、みぢかな人やペットなどの「死」に直面する場面があります。のこされて生きること、そして、かなしみの冒険の先にある希望を描いた絵本です。そして、それぞれの絵には「ひみつ」がかくされています。絵をさかさまにひっくりかえしてみると……?
とにかく印象の強い作品です。
タイトルの「ぼうけん」は、作者がこの絵本を作成する行為そのものの事を言っているように思いました。
死んだ愛犬の面影を追いかけることは冒険ではないでしょう。
どうして三輪車なのでしょう?
「ぼく」は何歳?
いろんな事を知っているからこそ、この世界があるのでしょう。
背景に描かれたキャンディといろいろな悲しみの隠し絵が、不気味でもあります。
こんなに打ちのめされているぼくが、やっとその死を受け止められるまでのお話です。
最後のページに、青い三輪車が登場します。
足だけしか見えません。
そして裏表紙では、赤と青の三輪車が仲良く並んでいます。
僕の悲しみの世界から救ってくれたのは誰? (ヒラP21さん 60代・その他の方 )
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