晩秋の武蔵野,明子は,カラスウリの実がたわわに垂れる家で女子大時代の先輩蕗子と運命の再会をした.満洲事変から破局へとすすむ激動期に,深い愛に結ばれて自立をめざす2人の魂の交流を描く.児童文学にうちこみながら,心の奥底に温めつづけた著者生涯のテーマを,8年かけて書き下ろした渾身の長編1600枚.全2冊.
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長篇小説「幻の朱い実」は,著者が児童文学にうちこみながら心の底に温めつづけてきた生涯のテーマに取り組み,8年の歳月をかけて87歳で完成させた渾身の書き下ろし.大江健三郎氏や丸谷才一氏の賞賛を得て読売文学賞を受賞.若くして逝った親友への痛切な思いが,この自伝的小説を生みだす原動力となった.「朱い実」とは真っ赤なカラスウリのこと. 尾崎真理子氏の近刊『ひみつの王国――評伝石井桃子』(新潮社)には,「一九九四年に発表された上下二冊の長編『幻の朱い実』を読んで,驚嘆した人は多かったに違いない.本人の分身のような若い主人公の明子を通じて,黙されてきた作者の若き日々が作中に投影され,そればかりか,石井は生涯独身だったにもかかわらず作中の明子は恋愛結婚して,憂い多き新婚生活の細部までリアルに描かれていたのだったから.」と書かれている.
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