真っ赤なヒナゲシの花がゆれるフランダースの野。のどかな風景のこの場所は、第一次世界大戦時、激戦地になったところだ。今も、不発弾や兵士の持ち物が見つかる。近くに住むマルテンス一家には、代々伝わる宝物があった。それは詩が記された一枚の紙きれ。第一次世界大戦に従軍した兵士が書き、戦後、世界中で有名になった詩だ。なぜこの詩がマルテンスの一家に伝わることになったのかを語りながら、戦争と人々のかかわりを描く物語。あとがきでは、「ヒナゲシの花」が戦後、戦没者追悼の象徴となった経緯が述べられている。
ベルギーのイーベル地方を舞台にした壮大な物語です。
広大な野原に咲き乱れるヒナゲシの群生は、第一世界大戦、第二次世界大戦の戦場ともなった場所で戦死した、おびただしい数の戦没者の象徴となりました。
「フランダースの野に」という、ジョン・マクレーの詩は初めて知りましたが、ヒナゲシとマクレーの詩を、重要な舞台装置にして、4世代に渡る人間物語です。
モーバーゴの語る物語は、詩情と抒情に満ち溢れていて、しかも現実感があります。
つい、実話を基にしていると勘違いするほど、事前調査が深堀されています。
卵売りの少女に、友人の墓にヒナゲシを供えて欲しいと頼んだ兵士が書いていた詩の反古。
それが曽祖父と曽祖母を結びつけるキーとなり、それが次世代にもつながるところに運命的なものを感じます。
曾孫にあたるマルテンスの父親は、ヒナゲシ畑にトラクターで踏み込んだときに、埋もれていた不発弾の爆発で死んでしまいました。
戦争の傷跡が残る場所は、戦争の悲惨さ伝える埋み火となっているようです。
物語の後の解説やマクレーの詩が、この本をさらに重厚にしています。 (ヒラP21さん 60代・その他の方 )
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