哺乳類なのに、水中で呼吸? 泳いでいるときに、銀色にかがやく? いやいや、そんな動物、いるわけない──
ところがいました、カワネズミ! ネズミというがモグラの仲間、ちいさな体のレアなやつ。
これは、そんなカワネズミに魅せられたひとりの研究者の、いくつもの失敗と挑戦、そして出会いと発見を描いた、大冒険の記録です。
前半では、著者である森本祈恵さんの大学入学からカワネズミ研究へと至るまでがつづられており、そこでは、さまざまな動物との出会いを求めて行動する中で森本さんが体験した、野生動物にまつわる驚くべきエピソードの数々を知ることができます。
そして後半では、カワネズミに魅入られた森本さんが、前例のない研究に着手し、失敗と進展とをくり返しながら、おどろくべき発見に至るまでのチャレンジが描かれています。
本書の魅力としてまっさきに伝えたいのは、著者である森本祈恵さんのキャラクター!
「ここまで読んできたみなさんは気づいていると思いますが、わたしは「研究とは、なにをするのか?」が、よくわかっていませんでした」
「ところが、楽観的なわたしの頭の中では、「さあ、カワネズミをつかまえよう!」ということでいっぱいでした」
実は著者である森本さん、大学の入試で出題された動物に関する小論文は、ちんぷんかんぷん。大学では授業をサボってヒバリの観察にのめり込み、単位も落として留年。一方で、「知りたい」と思ったことに対してどこまでもまっすぐに突っ込んでいく気質があり、卒業論文にクマの研究がしたいと決めた時は、難しいし危ないからと教授に止められても、自ら専門家の協力を取り付けて研究に踏み込みます。
「時どき、「ほんもののクマが見たい」と、ひとりで山に出かけて、歩きまわっていました。危険なことにはわたしも注意しましたが、ふしぎと「だいじょうぶだろう」という安心感のようなものがあったのも事実です。経験に裏打ちされた判断力をもちあわせている、そんなオーラが出ていたといえばいいのでしょうか」
これは、共同著者で、森本さんの恩師でもある小林朋道さんの言葉です。
情熱と行動力、それによって鍛えられた経験とセンスによって動物を探求している。森本さんのそうした強みは、後半のカワネズミ研究のシーンでも存分に描かれています。
なんだかまるで、冒険活劇の主人公! そんな、自分の「好き」を追求するエネルギーにあふれた著者が、情熱を抱いて臨む試行錯誤の物語に、すっかりシビれてしまいました。
カワネズミ研究についての章では、実験対象にどうアプローチしたのか、なぜそうしたアプローチをとったのか、それによって何がわかったのか、それらがかなり具体的に、かつ、わかりやすく解説されています。
動物研究とは、複雑な実験器具や、難解で専門的な知識ばかりを使っておこなわれるわけではないということに、おどろかされました。素朴な疑問や思いつき、シンプルなアイデアが、大発見につながるのです。
森本さんの研究を通じて、そうした発見の具体的な道筋を見せてくれる点も、本書のおおきなみどころのひとつ。なるほど、動物を研究するというのはこういうことなのかと、目から鱗でした。
好きを追求することの強さ。失敗から学んで結果につなげる力。森本さんの人柄とカワネズミの研究を通じて多くのことを示してくれる、おすすめの一冊です。
(堀井拓馬 小説家)
大学の卒業研究にあきたらず、 「モグラなのに名前はネズミ。泳ぎ、銀色に光る」 というカワネズミを追いかけることにした大学院生。 まったくの手探りで研究をはじめ、苦労しながら、生息地での観察、飼育下での実験などをとおして、カワネズミの行動に関する数かずのおどろきの発見にたどりつきます。 そこには、いっしょに研究を楽しみ、発見をともに感動し、ときにはきびしい言葉をかける、大学教授の存在がありました。
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