私は小豆島の出身だから、隠岐の島出身の中島さんの歌にはいつも注目していた。島育ちには、島育ちの気持ちがある。表題となった歌、
山の向こうにも 山がある 山を越え 知った 美しい山
この歌を見たとき、私は島の人の心を思い浮かべた。島の風景の延長上にあるこの山は、はるかに遠い山である。そして美しい。 その距離感を、私は勝手に感じていた。これは、彼女の代表作だろうと。
甲板から 見下ろす港 母が やけに小さかった 旅立ちの日
この対比の中に彼女の人生はあったのだと、私は解釈していた。その中間にある都会での生活歌、日常歌は、かなりリアルであり、シビアでもある。 そのなかでも、私が『五行歌』誌で取り上げた好みの歌がいくつかある。
あお、みずいろ、うすみどり、 夏日の四条大橋 行き交う人の まとう衣 打ち水のよう
息があるうちは 収集できません 段ボールの仔猫 二度目の電話で 受け付けられる
この人は、どこまでシニカルなのかと、思ったこの歌も印象的だった。
詩人になれなかった 死人 死人になった 詩人 どちらにもなりたくない
詩を書く人にはかならず見てもらいたい歌である。 (五行歌の会主宰 草壁焔太跋文より)
叙景歌から、ちょっぴりシニカルな日常詠、そして大阪らしいユーモラスな歌も楽しめる一冊。 巻末の、「五行歌私的年表」もユニークで楽しい。
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